2003年08月18日神戸中央サーフHP>SC研究初版掲載
                               2020年08月15日御調山SC研究所HP>SC研究追記復刻

Report #012  ローライダーとハイスピンダー;比較考察


1. 背景

近年、本格並継ぎ投げ竿のガイドはローライダーガイド全盛となり、かつて実釣用からスポーツ
キャスティング用まで幅広く用いられてきたハイスピンダーガイドは市販ガイド付き投げ竿からは
姿を消し、SCフリークの間でのみ引き続き愛用される運命を辿りました。

そして実釣派キャスターが多く参加する5種目では、ローライダーガイドを装着した最新モデル
投げ竿での出場者比率が大会毎に高くなってきているようです。

そこで、ローライダーガイドとハイスピンダーガイドを比較して、実際の飛距離やライントラブルの
発生比率,キャストフィールなどをST種目投擲のテストにより比較考察を行いましたので結果を
ご紹介します。


2. 外観形状比較

みなさん既にご存じとは思いますが、写真1にはローライダーガイド,写真2にはハイスピンダー
ガイドの外観を示します。

  
     写真1:ローライダーガイド            写真2:ハイスピンダーガイド

ローライダーはトップガイドからバットガイドまで小径SiCリングと背低・流線形フレームを組み合わ
せたことが特徴として挙げられます。

一方でハイスピンダーはトップガイドからバットガイドまで大径SiCリングと背高・直立形フレームを
組み合わせたことが特徴として挙げられます。

また、基本的なガイド装着数では、ローライダーガイドが実釣用:8個,SC用:7個に対し、
ハイスピンダーガイドでは実釣用,SC用ともに5〜6個となっています。
(具体的なリング径やフレーム高さは富士工業カタログを参照願います。)

これら外観上の違いから推測されるガイド特性の比較を行った結果を表1に示します。

表1 外観上の違いから推測されるガイド特性の比較
項  目 ローライダー ハイスピンダー ガイド特性(推測)
ガイドリング内径 小径 大径 小径ではライン抵抗増大
大径ではライン抵抗低減
ガイドフレーム高さ 低い 高い 背低ではロッドのねじれを低減
背高ではロッドのねじれが増大
ガイドフレーム形状 流線形 直立形 流線形では糸ガラミを低減
直立形では糸ガラミが増大
ガイド個数 7〜8 5〜6 数が多い程シンカー乗せ易い
数少ない程ロッド曲りに節生じる

なお、これら外観特徴から推測されるガイド特性はあくまでも私見でありメーカー公称値ではない
ことをご承知おき下さい。


 2.1 ロッドねじれについて

 ロッドを振る際の軌跡(スイングプレーン)がガイド設置軸にピッタリ一致することが理想的
 キャスティングでありますが、実際には投擲エリア後方から撮影したビデオには瞬間的にスイング
 プレーンとガイド設置軸のズレが映し出されています。

 写真3はST種目で振り始め段階の一コマですが、この後スイングプレーンはガイド設置軸と平行
 方向にシフトし、シンカーを加速する過程へと進みます。


  写真3 スイングプレーンとガイド設置軸のズレ

 スイングプレーンとガイド設置軸がズレることで、ガイド装着部のロッド断面ではモーメント応力が
 作用しロッドのねじれが生じると考えられます。

 モーメント応力とは、応力(F)を受ける点;作用点と荷重(W)が発生する点;力点との間が距離(L)
 だけ離れており、かつ荷重方向は作用点と力点を結ぶ軸線と交差している場合の力学的名称です。
 (図1参照)


            図1 ロッドにねじれを生じるモーメント応力の概略

 図1に示すように、ロッドにねじれを生じる原因の一つと考えられるガイド設置部のモーメント応力は、
 力点距離(L)が大きいほど増大傾向にあります。

 力点距離は、ガイドフレームが高くかつガイドリング径が大きい場合(ハイスピンダー)に比べて、
 ガイドフレームが低くかつガイドリング径が小さい場合(ローライダー)では極めて小さい値となる
 ため、スイングプレーンがガイド設置軸からずれる場合にもロッドのねじれが生じにくいという推測
 につながります。

 ただし、実際にロッドが大きくねじれるか否かは、ロッドの積層パターンや構造補強,材質補強の
 有無などによって律則される面もありますから、「ハイスピンダーでは必ずロッドがねじれる」という
 訳ではありません。


 2.2 ロッド曲がりの節について

 ストリップロッドへのガイド設置ピッチは、まずバットガイド位置を第一に決定します。

 バットガイドは、キャスティング時のシンカー荷重のノリを感じ易い位置で、かつ糸ガラミの少ない
 位置へ設置することになりますから、ロッドの硬さ以外にも使用するリールのスプール径や道糸
 号数,シンカー号数に加えてキャスター自身が発揮する初速度に応 じて最適位置は微妙に
 異なります。

 バットガイドの設置位置が決まると、残りのガイドをバランス良く配置していくのですが、総ガイド数
 が少ない(5個以下)場合、必然的にガイドピッチは長めの設定となります。

 ガイドピッチが長いと、ロッドピースの継ぎ目を挟む箇所のガイドピッチも長くなり、ロッドの継ぎ目
 補強肉厚部付近に曲がりの節を生じ易くなります。

 ガイド数が多い(6個以上)場合には、ロッドピースの継ぎ目を短ピッチで挟むことが可能となり、
 ロッドの継ぎ目補強肉厚部付近へのガイド設置も可能となります。

 従って、多点ガイド(6個以上)セッティングではガイドピッチの設定自由度が高くなり、ロッドの
 肉厚変化部やテーパー変化部にガイドを設置することが可能となるため、ロッドの曲がりに節を
 生じることが防止できるのです。


       写真4 ロッドの継ぎ目補強肉厚部近くへのガイド設置事例


 2.3 シンカー荷重の乗りについて

 ロッドの曲がりに節が生じると、シンカー荷重(シンカー自体の質量とその加速や遠心力によって
 作用する応力=ロッドを曲げようとする力)は節の部分に集中的に作用し、応力集中現象を引き
 起こします。

 ロッドの一点に応力集中が起こると、キャスティングのフィニッシュ時にはその部分の反発力しか
 得られないため、飛距離は伸びません。
 また、最悪の場合にはロッドが折れてしまうトラブルにも見舞われます。

 しかし、多点ガイドセッティングによってロッドの曲がりに節を生じさせなくすることで、シンカー荷重
 はロッドの#1セクションから#2セクションへと均一に作用し、ロッドの#2セクションから#3セクション
 を効率的に、キレイな円弧を描いて曲げることが可能になります。

 メーカーや機種が異なっても、キャスティングにおいてロッドの持つ遠投ポテンシャルを最大限に
 発揮するにはロッドの#2セクションから#3セクションを曲げ込むことが必要なのです。

 この時、キャスターの体感的な現象として、振り始めとともにシンカー荷重がロッドに強烈に作用
 してくる(乗ってくる)ことから、「オモリが乗ってくる」とか「乗りがいい」,「乗せて投げる」などと
 表現されています。

 ちなみにロッドにシンカー荷重が「バッチリ乗った」時には、「これが25号か?」と思うくらいに
 シンカー荷重が重く感じられ、ラインリリースの瞬間にはカーボンが反発する際に発する独特な
 「バシュ!」というやや低い波長の音が聞こえてきます。
 (釣り場でよく聞こえてくる「ピシュ!」という高い波長の音はシンカー荷重が乗り切っていない
 ロッドが反発した際に発する風切り音です。)


3. 実投比較

 3.1 ガイドセッティング

 実投比較にはリョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420を使用し、ST種目投擲
 にてデータを採取しました。

 テスト条件を一致させるため、いずれも6点ガイド仕様とし、ガイドピッチも表2に示す寸法で統一
 しました。

表2 ガイドセッティング一覧
項  目 ローライダー ハイスピンダー ガイドピッチ
トップガイド MNST-10H-4.5
(内径φ6.5)
SF-16F-4.5
(内径φ9.2)
0 mm
#2ガイド LCSG-8
(内径φ6.0)
SVSG-12
(内径φ8.5)
200 mm
#3ガイド LCSG-10
(内径φ7.2)
SVSG-16
(内径φ10..6)
250 mm
#4ガイド LCSG-12
(内径φ8.5)
SVSG-20
(内径φ14.0)
300 mm
#5ガイド LCSG-16
(内径φ10.6)
HVSG-25M
(内径φ18.3)
450 mm
#6ガイド LCSG-20
(内径φ14.0)
HVSG-30H
(内径φ23.4)
650 mm


 3.2 実投比較結果@;数値的データ分析

 実投比較は各ガイドセッティングで7回ずつST種目テスト投擲を行い、全スコアデータを基に平均
 飛距離,フェア投擲率,ライントラブル発生率などの分析を行いました。

 データ分析の結果を表3に示します。

表3 実投比較テストのデータ分析結果
項  目 ローライダー ハイスピンダー
ロッド リョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420
テスト方法 ST種目投擲
テスト回数 7 7
全投擲数 98 97
平均飛距離 162.9m 163.3m
最長飛距離 180m 180m
最短飛距離 141m 145m
標準偏差 9.4 8.0
フェア投擲回数・率 65 66.3% 65 67.0%
ファール
投擲
回数・率
ファール投擲
回数・率 合計
33 33.7% 32 33.0%
糸ガラミ 5 5.1% 10 10.3%
パーマ 2 2.0% 5 5.2%
抜け 16 16.3% 11 11.3%
引っ掛け 8 8.2% 2 2.1%
その他 2 2.0% 4 4.1%

 テスト投擲の全データ分析の結果から、次の知見が得られました。
  @ 平均飛距離はローライダー,ハイスピンダーとも大差ない。
  A 飛距離のバラツキ(標準偏差)はローライダーが若干大きくなる。
  B フェアゾーン投擲率はガイドの違いによる影響を受けない。
  C ガイドへの糸ガラミがローライダーではハイスピンダーに比べて半減する。
  D 抜けや引掛けによるファール率がローライダーではハイスピンダーに比べ1.8倍に増える。


 3.3 実投比較結果A;キャストフィーリングの比較

 ガイドセッティングの違いによるキャストフィーリングの変化については数値化が困難であり、
 あくまでも「感覚的」な比較結果である点をご承知おき下さい。

 数値データ分析結果ではガイドへの糸ガラミがローライダーでは少なく、ハイスピンダーでは多く
 なる結果が出ていますが、ローライダーでは目に見えないライントラブル
 …ラインリリース直後にバットガイドで瞬間的に発生する糸ガラミ…
 が頻繁に起こりました。
 (データ分析における糸ガラミは、シンカーの失速が明らかに確認されたものをカウントしています。)

 「目に見えない」とは言うものの、投擲テストを終えたロッドのバットガイド固定スレッドには
 テーパーラインの摩擦痕が多数残っており、ローライダーガイドでは高確率でバットガイドへの
 瞬間的糸ガラミが生じていたものと思われます。

 このため、飛距離のバラツキがやや大きくなり、それ程強い風が吹いていた訳でもないのに突然
 前投擲より10m程飛距離がダウンすることがよくありました。

 また、ローライダーガイドでは振り始めとともにロッドにシンカー荷重がズシリと乗ってくる感じが
 しましたが、そのために同一ロッドのハイスピンダーガイド仕様に比べて一クラス硬く感じられ、
 投擲時のパワーオン・タイミングやラインリリース・タイミングが最適化できず、抜けや引掛けなど
 のファールを連発してしまう結果となりました。


4. まとめ

ガイドへの糸ガラミが低減され、オモリの乗りも良くなるローライダーガイドですが、ST種目投擲
テストでは同一ロッドでもハイスピンダーガイドに比べて抜けや引掛けなどでコントロール性が
悪化する点や、バットガイドへの瞬間的糸ガラミにより飛距離ダウンする点は、たったの5投しか
できないSC競技…特に急激に投擲動作を開始するST種目や5種目…ではプラス要素に作用する
ことは少ないと考えられます。

しかし、ローライダーガイドを装着した実釣用ロッドでは、定常的に80%以下の力加減で仕掛けを
投入していますが、バットガイドへの瞬間的糸ガラミはほとんど発生しておらず快適な遠投が可能
です。

ということで、結論的には実釣用遠投ロッドに最適と思われるローライダーガイドですが、SC競技用
としてはもう少しリング径の大きいサイズでライン通過抵抗を低減するタイプの発売を期待したい
ところです。

現時点では少々の糸ガラミは目をつぶって、SC競技用ロッドにはハイスピンダーガイドの組み合わせ
がベターマッチングだと思われます。

ただし、富士工業がセット販売しているハイスピンダーガイドは5点式(表2のガイドセッティングから
SVSG-12を除いたもの)ですが、ロッドの曲がりに節を生じさせずオモリの乗りを良くするためにも
6点式に追加されることをお薦めします。


5. 2020年8月15日追記復刻で17年前を振り返る

17年前の2003年当時は、1mでも飛距離を伸ばしたい、1投でもライントラブルを減らしたいと夢中
でガイドセッティングを変更してテストを繰り返していました。

本レポートを記述する約1年半年前にハイスピンダー5点式から同6点式への変更テストを開始して、
6点式ガイドでの飛距離安定化とライントラブル低減のメリットを体感しました。

さらに、6点式にする場合の#5ガイド設置位置についても試行錯誤があり、#2セクションの玉口
直下に設置するパターンと#1セクションの継ぎ目補強部直上に設置するパターンとを比較しました。

結果、後者の方がロッドを曲げ易くカーブも理想的だったことから、17年経過した今でもすべての
キャスティングロッドで同様の箇所に#5ガイドを設置しています。

ロッドへのガイド設置位置を決定する基本理論が構築されると、ガイドフレーム形状やリング径の
組み合わせを変えて種々テストをする中で、本レポートで取り上げたローライダー6点式ガイド
セッティングも比較検証を行いました。

結果的には、ローライダーガイドはバットガイドのリング径が小さいことに起因するテーパーライン
区間の抜け悪さが致命的欠点と判断して、後にバットガイドのみハイスピンダーガイドに換装した
ローライダー改6点式ガイドセッティングにて比較検証は継続されました。

そして、ローライダーガイドでもキャスティング競技に実用可能との結論を2004年3月にレポート
したのが、『Report #019 対決! ローライダー改 vs ハイスピンダー』です。

その『Report #019 対決! ローライダー改 vs ハイスピンダー』についても追記復刻をします
ので、ご覧下さい・・・