2004年03月09日神戸中央サーフHP>SC研究初版掲載
2020年08月16日御調山SC研究所HP>SC研究追記復刻
Report #019 対決! ローライダー改 vs. ハイスピンダー
1. 背景
Report #012 『ローライダーとハイスピンダー;比較考察』では、
リョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420をテキストロッドに、ガイドセッティングの
違いによる飛距離やフェアゾーン投擲率,ライントラブル発生率などの比較考察を行った。
この結果、飛距離の向上はみられず、ロッドアクションが1クラス硬く感じられることにより、
抜けファール(右サイドライン外れ)や引掛けファール(左サイドライン外れ)が増加するという
結論に至った。
また、小口径のバットガイドにテーパーラインが殺到するため、瞬間的な糸ガラミを生じて飛距離を
ロスする傾向も確認された。
今回のテストでは、バットガイドを小口径ローライダー:LCSG-20から中口径ハイスピンダー:
HVSG-25Mに換装し、さらにテキストロッドをBORONプロスカイヤーに比べてやや軟らかめの
リョービ・スーパーD-HZ プロスカイヤー 40-425に変更して、ローライダー改6点式ガイドセッティング
での飛距離,コントロール性,キャストフィールなどをハイスピンダーガイド6点式の場合と比較した。
もちろんST種目で。
2. ローライダーガイドに求める特性
Report #012 『ローライダーとハイスピンダー;比較考察』でも述べたが、ここでもう一度
ローライダーガイドに求める特性についてまとめておこう。
@ロッドへのシンカー荷重のノリが良くなりスイング時のパワーゾーンが拡大
Aロッドがねじれ難く反発エネルギーのロスが低減
Bガイドフレームへの糸ガラミ発生を抑制
C竿先部慣性質量減少および空気抵抗(投影面積)減少による反発エネルギーロスの低減と
フィニッシュ時のリバウンド抑制
3. ガイドセッティング
今回比較テストしたガイドセッティングを表1,図1に示す。
表1 ガイドセッティング一覧
ガイドセッティング ハイスピンダー6点式 ローライダー改6点式 テキストロッド リョービ・スーパーD-HZ プロスカイヤー 40-425 実測自重 全 体 634 g 629 g #1セクション 94 g 92 g #2セクション 179 g 176 g #3セクション 361 g 361 g ロッドトップ
からの距離
(ガイド,シート種)TOPガイド 0 mm
(SF-16F-4.5)0 mm
(MNST-10H-4.5)#2ガイド 200 mm
(SVSG-12)200 mm
(LCSG-8)#3ガイド 440 mm
(T-SVSG-16)440 mm
(LCSG-10)#4ガイド 760 mm
(T-SVSG-20)760 mm
(LCSG-12)#5ガイド 1,215mm
(T-HVSG-25M)1,215 mm
(LCSG-16・逆付け)#6ガイド 1,865 mm
(T-HVSG-30H)1,865 mm
(T-HVSG-25M)リールシート 3,325 mm
(T-LS-7)3,325 mm
(T-LS-7)ロッドエンド 4,254 mm 4,254 mm
表1からも判るように、ロッド質量は#1セクションで2g,#2セクションで3g、合計5gの軽量化を果たし
ている。
ST種目ではビーパーを含むシンカー質量が約110gであり、ロッドの軽量化質量はシンカー質量の
4.5%に相当する。
当然この軽量化された質量分だけシンカー加速に費やされるロッドの反発エネルギーは増大する
と考える。
なお、チタン合金製ハイスピンダーよりもステンレス鋼製ローライダーの方が5gではあるが軽量化
可能である。
チタン合金製ローライダーではさらに軽量化が可能であるが…高価なため、まずはステンレス鋼製
ローライダーである程度の信頼性が確認できるまでは手が出せない。
4. 実投テストの結果
実投テストは全くの同一コンディションで行うことが望ましいが、ガイドセッティングを変更した場合
の比較テストではテストコンディション(風向,風速など)を共通にすることは不可能である。
そこで、今回の比較テストではリョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420
(ハイスピンダー6点式仕様)の投擲データをベンチマークとして、相対比較を継続的に行った。
比較テストの結果を表2,図2,3に示す。
表2 実投テスト結果一覧
ロッド リョービ・BORON プロスカイヤー
競技スペシャル 40-420リョービ・スーパーD-HZ プロスカイヤー
40-425ガイドセッティング ハイスピンダー6点式 ハイスピンダー6点式 ローライダー改6点式 テスト回 1〜5 6〜11 1〜5 6〜11 フェアゾーン平均飛距離 169.56 m 164.54 m 168.24 m 166.74 m 上位60%平均飛距離 170.82 m 166.14 m 168.98 m 167.20 m 最長飛距離 180.0 m 175.0 m 178.0 m 178.0 m 最短飛距離 156.0 m 149.0 m 151.0 m 153.0 m 着地点正確度平均 +6.17 m +7.05 m +8.06 m +5.25 m 総投擲回数 52 投 57 投 44 投 67 投 フェアゾーン投擲回数(率) 40 投 (76.9%) 38 投 (66.7%) 29 投 (65.9%) 46 投 (68.7%) ファールゾーン
投擲回数(率)ファール合計 12 投 (23.1%) 19 投 (33.3%) 15 投 (34.1%) 21 投 (31.3%) 抜け 8 投 (15.4%) 12 投 (21.1%) 10 投 (22.7%) 10 投 (14.9%) 引掛け 0 投 (0.0%) 1 投 (1.8%) 1 投 (2.3%) 5 投 (7.5%) ライントラブル 3 投 (5.8%) 3 投 (5.3%) 4 投 (9.1%) 3 投 (4.5%) パーマ・糸切れ 1 投 (1.9%) 3 投 (5.3%) 0 投 (0.0%) 3 投 (4.5%)
図3 実投テスト結果;飛距離/正確度評価
5. テスト結果の分析
5.1 飛距離データ分析
実投テストの結果を表3に示す。
データは、本番競技と同様5投を1クールとしてテスト一回当たり2〜3クール実投を行った全投擲
データのうち、上位60%の平均飛距離を示している。
表3より、ハイスピンダー6点式仕様D-HZ プロスカイヤーではハイスピンダー6点式仕様
BORON プロスカイヤーの飛距離に定常的に劣っていたのが、ローライダー改6点式仕様
D-HZ プロスカイヤーではハイスピンダー6点式仕様BORON プロスカイヤーと同等かやや上回る
飛距離をマークしていることがわかる。
これらの結果から推定される、ローライダー改6点式仕様への変更による平均飛距離アップは
推定2〜3mであるが、これは以下の点が有効に作用したものと考える。
@バットガイドの口径をやや大きくしたことによりテーパーライン通過抵抗が減少した
Aガイド質量低減とロッドねじれの抑制によりロッドの反発エネルギーがシンカー加速に貢献
する割合が増加した
Bガイド質量低減によるフィニッシュ直後のロッドリバウンドが低減したことでラインがロッド
ブランクスやガイドフレームと接触することが抑制された
Cロッドへのシンカー荷重のノリが良くなりフィニッシュ直前のロッドしなり量が増加した
なお、第1回〜第5回テスト(’03年11月〜12月)に比べて第6回〜第11回テスト(’04年1月〜2月)
では相対的に飛距離がダウンしているが、これは第6回テスト以降で季節風が強くなったことが
要因と考える。
表3 各テスト回毎の上位60%平均飛距離データ分析結果
ロッド リョービ
BORON プロスカイヤー
競技スペシャル 40-420リョービ
スーパーD-HZ プロスカイヤー
40-425スーパーD-HZ
vs
BORON
飛距離差ガイドセッティング ハイスピンダー6点式 ハイスピンダー6点式 ローライダー改6点式 第1回テスト
上位60%平均飛距離165.67 m 164.83 m − -0.83 m 第2回テスト
上位60%平均飛距離169.00 m 168.00 m − -1.00 m 第3回テスト
上位60%平均飛距離174.31 m 173.67 m − -0.65 m 第4回テスト
上位60%平均飛距離173.88 m 170.70 m − -3.18 m 第5回テスト
上位60%平均飛距離171.25 m 167.70 m − -3.55 m 第1回〜第5回テスト
平均飛距離170.82 m 168.98 m − -1.84 m 第6回テスト
上位60%平均飛距離171.83 m − 175.17 m +3.33 m 第7回テスト
上位60%平均飛距離161.50 m − 159.30 m -2.20 m 第8回テスト
上位60%平均飛距離162.50 m − 168.03 m +5.53 m 第9回テスト
上位60%平均飛距離164.86 m − 165.00 m +0.14 m 第10回テスト
上位60%平均飛距離169.78 m − 168.93 m -0.84 m 第11回テスト
上位60%平均飛距離166.40 m − 166.80 m +0.40 m 第6回〜第11回テスト
平均飛距離166.14 m − 167.20 m +1.06 m
5.2 投擲精度(シンカー着地点正確度)分析
今回の比較テストのうち、第1回〜第5回テストは比較的穏やかな天候が続いていたが、
第6回〜第11回テストではコート左側から季節風が吹き込んだため、自然と弾道は右方向へ
流されがちであり、投げ慣れたBORON プロスカイヤーですらフェアゾーン投擲率が約77%から
約67%まで、10%もダウンした。
一方でローライダー改6点式仕様D-HZ プロスカイヤーでは、抜けファールの投擲頻度が約8%
減少しており、引掛けファールの投擲が2.3%から7.5%に増加したもののトータルのフェアゾーン
投擲率は3%アップの約69%となっている。(表2参照)
引掛けファール率が高くなった原因としては、ガイドセッティング変更に伴い竿先からシンカー
までのタラシ長さを調整する過程で、やや短めのタラシを選んだ際に左ファールエリアに投擲して
しまったことが挙げられる。
総合すると、図3に示すようにローライダー改6点式仕様では、ハイスピンダー6点式仕様に比べて
コートセンター付近への投擲頻度が高くなっており、飛距離だけに限らず投擲精度
(シンカー着地点正確度)においても性能向上がみられた。
5.3 ライントラブル発生率データ分析
前回のテストでローライダーガイドのライントラブル低減性能は優れたものであったが、今回の
テストでもローライダー改6点式仕様はハイスピンダー6点式仕様に比べてライントラブル発生率
が半減している。
テストロッドのD-HZ プロスカイヤーは、反発力と振動減衰性を高めるためにブランクスに多くの
40tf級高弾性カーボン繊維を使用しているものの、ハイスピンダー仕様ではやはりガイド質量の
影響でフィニッシュ直後のロッドリバウンドが激しく、#2ガイドから#3ガイドにかけて糸絡みする
ライントラブルを生じ易い傾向があった。
しかし、ローライダー改6点式仕様ではフィニッシュ直後のロッドリバウンドが大幅に低減され、
#2ガイドから#3ガイドへのライントラブルは皆無であった。
唯一ライントラブルを起こすのはバットガイドであり、このトラブルの原因はガイド特性よりは二度
振りやスウィング動作初期のラインテンション緩みなどむ しろ投げ方の問題であると考える。
6. キャストフィーリング比較
ハイスピンダー6点式仕様D-HZ プロスカイヤーでの投擲動作合成写真を図4に、
ローライダー改6点式仕様D-HZ プロスカイヤーでの投擲動作合成写真を図5に示す。
図4 ハイスピンダー6点式仕様での投擲 図5 ローライダー改6点式仕様での投擲
図4,図5において、
(1) @〜Aコマ目でロッドの#1セクションにシンカー荷重を感じ始めるタイミングとなり
(2) Bコマ目以降はロッドの#2セクションにシンカー荷重が乗ってくるので更にロッドを押し込み
#3セクションを曲げる
(3) Eコマ目でラインリリースしてフィニッシュ
するのだが、ハイスピンダー6点式仕様では#2セクションの突っ張り感が強く、Aコマ目とBコマ目
の切り替えポイント=パワーオンタイミングが計り難く、
『#2セクションが硬くてジャジャ馬的性格のロッド』という印象であった。
一方、ローライダー改6点式仕様ではA〜Bコマ目でごく自然に#2セクションにシンカー荷重が
乗ってきて『曲がる感触』が感知できるので、そのままC〜Eコマ目までフルにパワーを掛けて
振り切ることができる。
さらに、フィニッシュのリリースポイントもつかみ易いキャラクターに変化している。
結果として、ローライダー改6点式仕様ではハイスピンダー6点式仕様よりもロッドのしなりが増して
いるフィーリングで、リリース直後にはロッドの反発が強く腕に伝わってくる。
これらの特性変化が飛距離アップに貢献しているのは間違いなく、ローラ イダー改6点式仕様は
『適度に硬くパワフルでありながら従順かつ投げ易いロッド』に生まれ変わったのである。
ちなみに、日頃からハイスピンダー仕様D-HZ プロスカイヤー 40-425をST種目に使用されている
平田選手(広島協会)と山下選手(備後協会)にローライダー改6点式仕様D-HZ プロスカイヤーの
試投をお願 いしたところ私と同じ印象を持たれたようで、両氏とも「ハイスピンダー仕様よりも投げ
易く飛距離もアップしたようだ。」とのコメントをいただいた。
7. まとめ
今回テストしたローライダー改6点式仕様は、飛距離アップやコントロール性向上、ライントラブルの
低減やキャストフィーリングの改善など多くの効果が期待できる、との結論に至ります。
しかし、これはあくまでもリョービ・スーパーD-HZプロスカイヤー 40-425をST種目でテストした
ほんの一例であり、他のキャスティングロッドの場合やST種目以外のキャスティング競技、
あるいは実釣ロッドにも同じ効果が期待できるか?と問われると答えは???であります。
ただ一つ、共通することといえば、「市販品をそのまま使うよりも、キャスティングがさらに効率的,
機能的,論理的に進歩する、あるいは楽しさが増す方法がどこかにある。」ということではない
でしょうか?
今後はシマノ・スピンパワーSC 425XXやリョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420
もローライダー改6点式仕様に換装し、ガイド特性の追跡調査を行う予定です。
結果はまたの機会にレポートしますのでお楽しみに。
8. 2020年8月16日追記復刻で16年前を振り返る
2003年8月に『Report #012 ローライダーとハイスピンダー;比較考察』をレポートした7ヵ月後の
2004年3月に本レポートを作成しました。
この7ヵ月の期間中にガイドセッティングの再検討とテストロッドの選択、そして実投テストを繰り
返しながらも、私自身は2003年10月の全日本SC選手権で念願のST-A種目初優勝を経験しました。
この大会には、ハイスピンダー6点式仕様のBOPRON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420で
出場しましたが、実はその時点で翌年のキャスティング競技ではハイスピンダー6点式ガイド
セッティングはもう使わない方針を持っていました。
2003年11月から2004年2月のシーズンオフ期間は、ローライダー改6点式仕様の
スーパーD-HZ プロスカイヤー 40-425で投げ込みを行い、予定通り2004年シーズン初頭から
キャスティング大会の本番仕様に起用。
BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420も2004年4月にローライダー改6点式仕様に換装
して、2004年8月以降2006年シーズン中盤までの2年半はこちらをキャスティング競技本番仕様に
起用しました。
その2年半の期間に、ローライダー改6点式ガイドセッティング自体も改良を重ね、
・第1世代:ローライダー改6.1Ver ・・・ステンレス鋼製フレームガイドの本レポート掲載仕様
・第2世代:ローライダー改6.2Ver ・・・上記6.1Verの#5ガイド設置方向を正方向に変更
・第3世代-1:ローライダー改6.3.1Ver ・・・上記6.2Verの#2ガイドをLCSG-8からLCSG-10に換装
・第3世代-2:ローライダー改6.3.2Ver ・・・上記6.3.1Verのガイドフレームをオールチタン化
・第3世代-3:ローライダー改6.3.3Ver ・・・上記6.3.1Verの#2ガイドをLCSG-10からMNSG-10に換装
の5種類が完成。
適用するロッドの特性や用途(大会本番仕様,練習専用)で、6.3.1Ver〜6.3.3Verを使い分けました。
2004年10月の全日本SC選手権と2005年5月の全日本SC協会対抗戦(個人戦)では6.3.1Ver〜
6.3.2VerのBORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420でST-A種目を連覇し、今振り返ると
当時:2003年から2005年が私にとってのキャスティング人生で最高のパフォーマンスを発揮できた
『SC研究黄金期』でした。
Report #012とそれに続く本レポートで、『ローライダーガイドは飛ぶのか?』という疑問を追求し、
比較検証を重ねたことが、後に『SC研究黄金期』を実体験できたきっかけかも知れません。
残念ながら、本レポートの最後の一文:
『今後はシマノ・スピンパワーSC 425XXやリョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420
もローライダー改6点式仕様に換装し、ガイド特性の追跡調査を行う予定です。
結果はまたの機会にレポートしますのでお楽しみに。』
のくだりは、実際にガイド換装は行ったもののReportの作成は実現しないままに16年もの歳月が
過ぎてしまいましたが・・・
本当にまたいつか、近代キャスティング競技用ロッドにローライダー改6点式仕様で、KWガイドと
比較考察をするのも面白いかも知れませんね。
最近ドはまりしている、12スピンパワー 405XXか16スピンパワーSC 405X2でテストしてみるのも
面白そうです・・・