2004年03月24日神戸中央サーフHP>SC研究初版掲載
                               2020年10月06日御調山SC研究所HP>SC研究追記復刻

Report #020  対決! シマノ・ファインセラミックSC 425XX vs. シマノ・98スピンパワーSC 425XX


1. '90年代キャスティングロッドを象徴する2つのモデルが対決!

'89年に登場した『ファインセラミック』シリーズは、実釣用EXからAXとキャスティング競技用XXとXXXの
全7タイプ展開により絶大な人気を得て、キャスティング競技ではST種目も含め多くの選手がこのロッドを
愛用されていました。

そして'98年に登場したファインセラミックの後継モデル『98スピンパワー』シリーズは、実釣用に特化して
細さと軽さに磨きをかけた先調子仕様:『SF』シリーズと、キャスティング競技用に特化してブランクス全域
の反発力を高めた胴調子仕様:『SC』シリーズの2本立てとなりグレード数は13タイプとほぼ倍増。

実釣派とキャスティング競技派ともに大人気モデルとなりました。

これら'90年代を代表するキャスティング競技用ロッドを象徴する2つのモデル対決はどちらに軍配が上がる
のでしょうか?

今回もST種目(道糸2号+力糸あり+25号シンカー)で実投比較テストを行い、飛距離,正確度,キャスト
フィーリングの比較を行いました。


2. スペック&外観比較

シマノ・ファインセラミックSC 425XXとシマノ・98スピンパワーSC 425XXのスペック比較を表1,表2に、
キャストコントロールグリップの外観比較を写真1に、ブランクス表面塗装状態の比較を写真2に示す。

表1 ロッドスペックの比較@・・・カタログスペックとガイドセッティング
シマノ・ファインセラミックSC 425XX シマノ・98スピンパワーSC 425XX
実測全長 4,261 mm 4,265 mm
先径(カタログ値) 3.9 mm 4.6 mm
元径(カタログ値) 24.3 mm 23.0 mm
ストリップ仕様自重(カタログ値) 520 g 505 g
ガイド付き
実測自重
全 体 674 g (含バランサー50g) 593 g (含バランサー20g)
# 1 90 g 84 g
# 2 184 g 189 g
# 3 400 g (含バランサー50g) 320 g (含バランサー20g)
ガイドセッティング

ロッドトップからのピッチ
(ガイド,シート種)
TOPガイド 0 mm
(SF-16F)
0 mm
(SF-16F)
#2ガイド 250 mm
(SVSG-16)
200 mm
(T-SVSG-12)
#3ガイド 630 mm
(SVSG-20)
440 mm
(T-SVSG-16)
#4ガイド 1,155 mm
(HVSG-25M)
765 mm
(T-SVSG-20)
#5ガイド 1,190 mm
(T-HVSG-25M)
バットガイド 1,875 mm
(HVSG-30H)
1,860 mm
(T-HVSG-30H)
リールシート 3,330 mm
(FS-7)
3,330 mm
(T-LS-7)
メーカー希望小売価格(税別) 88,000円 102,000円


表2 ロッドスペックの比較A・・・実測ブランクス径と算出ブランクステーパー
シマノ・ファインセラミックSC 425XX シマノ・98スピンパワーSC 425XX
ロッドトップ
からのピッチ
ブランクス直径 算出勾配 ロッドトップ
からのピッチ
ブランクス直径 算出勾配
#1セクション 58 mm 4.05 mm 0.154 度 42 mm 4.65 mm 0.130 度
400 mm 6.35 mm 460 mm 7.15 mm
800 mm 8.60 mm 840 mm 9.00 mm
1,230 mm 10.80 mm 1,250 mm 10.80 mm
#2セクション 1,495 mm 13.85 mm 0.136 度 1,580 mm 13.90 mm 0.122 度
1,980 mm 16.10 mm 1,980 mm 15.70 mm
2,380 mm 17.90 mm 2,380 mm 17.30 mm
2,640 mm 19.10 mm 2,580 mm 18.15 mm
#3セクション 2,910 mm 22.50 mm 0.049 度 2,936 mm 21.70 mm 0.048 度
3,240 mm 23.05 mm 3,226 mm 22.10 mm
3,760 mm 23.95 mm 3,736 mm 23.00 mm
4,115 mm 24.60 mm 4,126 mm 23.80 mm



 写真1 キャストコントロールグリップの外観比較



   写真2 ブランクス表面の塗装状態比較

スペック比較で得られた知見を列挙すると・・・

 知見@:ファインセラミックSCでは細くて軽くファストテーパーの#1,#2セクションとやや太め厚肉構造の
      #3セクションから構成されている。
      先調子アクション特有の勾配&肉厚配分か?
 知見A:スピンパワーSCでは穂先がやや太く、スローテーパーの#1,#2セクションと細身軽量設計の
      #3セクションから構成されている。
      胴調子アクション特有の勾配&肉厚配分か?
 知見B:グリップ形状は両ロッドともカーボン一体成型の『キャストコントロールグリップ』搭載であるが、
      ファインセラミックSCは第二世代形状,スピンパワーSCは第三世代形状となる。
      握り易さは優劣つけ難いが、どちらかというと異形状長・幅が小さいスピンパワーSCの形状が
      手になじむ。
 知見C:ファインセラミックSCではブランクスの大部分が無着色クリア塗装のみ施しているのに対し、
      スピンパワーSCでは全面メタリックシルバーの塗装が施されている。
      エポキシ樹脂の紫外線劣化を防止する効果はスピンパワーSCが断然高いと思われるが、
      カーボン素材が見えるデザインの方が個人的には好きである。
      両ロッドとも『ハイパワーX構造』には極薄のカーボンテープを使用しているようで、ロッド表面の
      凹凸は極めて小さい。
 知見D:ガイドフレームが、ファインセラミックSCはステンレス鋼製、スピンパワーSCはチタン合金製
      という違いもあるが、ファインセラミックSCの方が持ち重り感がある。
      両ロッドのバランス感を近付けるために、ファインセラミックSCでは50gのバランサを、
      一方の98スピンパワーSCでは20gバランサを装着して実投比較テストを行った。

                          

3. 実投飛距離と正確度の比較

各ロッドで投擲した際の飛距離,正確度比較結果を表3に、シンカー着地点分布を図4に示す。

表3 実投飛距離と正確度の比較結果
シマノ・ファインセラミックSC 425XX シマノ・98スピンパワーSC 425XX
上位60%平均飛距離 171.23 m 170.13 m
フェアゾーン平均飛距離 167.71 m 165.70 m
最長飛距離 174.00 m 173.40 m
最短飛距離 154.00 m 142.00 m
テスト回毎
上位60%
平均飛距離
第1回 171.03 m 168.10 m
第2回 171.43 m 172.17 m
第3回 162.37 m 164.83 m
正確度平均 2.96 m 0.93 m
正確度標準偏差 10.46 12.26
フェアゾーン投擲数 15 75.0 % 16 72.7 %
ファールゾーン
投擲数
抜  け 3 15.0 % 2 9.1 %
ライントラブル 1 5.0 % 1 4.6 %
引っ掛け 1 5.0 % 3 13.6 %
ファール合計 5 25.0 % 6 27.3 %
投擲数合計 20 100 % 22 100 %

 
       図4 ファインセラミックSCと98スピンパワーSCの飛距離&正確度レンジ実測結果


実投飛距離と正確度の計測結果を比較して得られた知見を列挙すると・・・

 知見@:上位60%平均飛距離を比較すると、ファインセラミックSCが98スピンパワーSCを約1.1mであるが
      上回っている。
      第1回テスト時に、ファインセラミックSCが98スピンパワーSCに対し約3m優位であったことが影響
      している。
 知見A:その第1回テスト時は、他のロッドで20投程投げ込みをした後で本比較テストを実施したが、
      98スピンパワーSCでは身体的疲労に伴い飛距離がダウンする傾向が顕著であったことが影響
      している。
 知見B:身体的疲労感を排除した第2回,第3回テストでは、98スピンパワーSCがファインセラミックSC
      に対し0.7〜1.5mの差で優位であった。
 知見C:キャスティング競技の場面では基本的には身体的疲労を考慮しなくても良いため、
      98スピンパワーSCの方がファインセラミックSCよりも飛距離アップには有利ではないだろうか。
 知見D:一方で、身体的疲労を考慮する必要がある実釣の場面では、ファインセラミックSCの方が
      98スピンパワーSCよりも飛距離を高い水準で維持し易いと考える。
 知見E:正確度平均は98スピンパワーSCの方が小さい値となっているが、シンカー着地点がコートの
      左右にほぼ均等に分散した結果として平均値がコートセンターに近付いたものである。
      実質的なコントロール性はシンカー着地点のプロットがコートセンター付近に集中している
      ファインセラミックSCの方が優れると考える。
 知見F:ロッドの反発が速い98スピンパワーSCではリリースタイミングが一瞬遅れると引っ掛け気味の
      ファールとなり易い。
      ロッドの反発が98スピンパワーよりも遅いファインセラミックSCでは、リリースタイミングがやや
      遅れ気味の方がコートセンターをとらえる率が高くなる。
 知見G:つまり、ファインセラミックSCでは慌てずロッドの反発挙動開始を待ってラインリリースすれば、
      フェアゾーンへのシンカー着地が容易に達成できる。
      (=98スピンパワーSCよりも投げ易い印象を持つ。)
 知見H:ファインセラミックSC,98スピンパワーSCともに、フェアゾーンへの投擲率は7割強と高水準で
      あった。


4. キャストフィール比較

各ロッドで投擲した際のコマ送り画像(7コマ分=約0.2秒間)を写真3〜写真5以下に示す。

  
写真3 ファインセラミックSC 425XXのスウィング動作写真  写真4 98スピンパワーSC 425XXのスウィング動作写真

  
写真5 ファインセラミックSCと98スピンパワーSCの合成写真
    (写真3,写真4のBコマ目を合成した写真)


 知見@:スピンパワーSCは胴調子ゆえに、最大しなり量を与えたB〜Cコマ目のロッドカーブが穂先
      からリールシート部にかけて節のない滑らかな曲線を描いている。
 知見A:ファインセラミックSCは先調子ゆえに、ロッドカーブは最大しなり量を与えたB〜Cコマ目で
      #4ガイド付近に偏曲点を有する屈曲したロッドカーブとなっている。
 知見B:スピンパワーSC,ファインセラミックSCともにバットガイドからリールシート部にかけてのロッド
      カーブはほぼ同じレベルである。
 知見C:スピンパワーSCでは@〜Aコマ目でロッド穂先部分が硬く感じられ、A〜Cコマ目にかけて
      シンカー荷重をロッドに乗せるために多大なパワーを要する。
 知見D:一方ファインセラミックSCは@〜Aコマ目で98スピンパワーSCよりもロッドが軟らかく感じられ、
      シンカー荷重が素直にロッドに乗ってくる。
      B〜Cコマ目で突き手をプッシュするだけで多大なパワーを要さずにロッドが振り切れる。
 知見E:ロッドの反発挙動はスピンパワーSCのほうが速く、ファインセラミックSCは緩やかであるが、
      反発力自体は両ロッドともに強烈であり大差は感じられなかった。


5. まとめ

今回の比較テストは、'90年代SCロッドを象徴する2機種を投げ比べることで、
 @キャスティング競技用ロッドはモデルチェンジにより性能面・機能面で進歩しているのか?
 Aロッドの進化はキャスティング競技派,実釣派それぞれのキャスターに対してどのような変化を
  もたらすのか?
 B次世代キャスティング競技用ロッドはどこに向かってどのように進化していくのか?
という素朴な疑問を考察するために企画しました。

結論としては、ロッドはモデルチェンジにより随所に進化がみられ、遠投性能はもちろんグリップの握り心地
やブランクスの耐久性,デザイン面で性能向上が確認されました。

一方でカーボン材質のグレード(弾性率)が向上したことにより、ロッドを曲げるために要するパワーは増大
傾向にあります。

5投しか投げることがないキャスティング競技では身体的疲労状況には陥らないため飛距離がダウンする
ことはないと考えられますが、長時間にわたって投擲とリーリングを繰り返す実釣競技(キス数釣り)では
身体的疲労による飛距離ダウンは避けられないと思われます。

キャスティング競技派キャスターの中には、スピンパワーSCを手にして飛距離が1ランクアップした方も多い
ようですが、スピンパワーSCもデビューからはや丸6年。('04年時点で)

シマノの従来のモデルサイクルから推測すると'05年あたりにはフルモデルチェンジを迎えるのでは
ないでしょうか?

98スピンパワーのような胴調子ロッドは、ヘビーシンカー種目(特に2種目)のキャスターにやや不評であり、
ST種目でも極端にシャクった投げ方をすれば一瞬にしてロッドが腰砕けになり、強烈な反発力を得る
ことはできません。

ヘビーシンカー種目の選手には先調子のファインセラミックSCが相変わらず人気ロッドである点と、
プロサーフSFローライダー,三代目キススペシャルがファインセラミック風に先調子路線への回帰作として
発売されているところから推測して、新型スピンパワーは先調子回帰作第3弾として発表されるのも間近
ではないでしょうか???


6. 2020年10月6日追記復刻で16年前を振り返る

'03年10月12日の全日本SC選手権大会・ST-A種目で初優勝した副賞として、98スピンパワーSC 425XX
をいただきました。

当時の私は、リョービ・BORONプロスカイヤー競技スペシャル40-420をキャスティング大会本番でようやく
思い通りに振り切れるようになった頃です。

当然、翌'04年シーズンのキャスティング大会もBORONプロスカイヤーでの参戦を固く決意しており、
せっかくいただいた98スピンパワーSC 425XXもキャスティング大会本番に起用する意思はなく、
キャスティングロッドの研究題材として活用させていただこうという思いで実投テストを重ねていました。

BORONプロスカイヤーとの実投比較から開始して、さらには練習仲間でもある備後協会・作田弘道氏の
ご協力で、念願だったファインセラミックSC 425XXとの実投比較テストもさせていただきました。

あの頃は、とにかくキャスティングロッドやリールの実投比較に貪欲で、片っ端から投げたてみたくて
たまらない時期でした。

そういう経緯で、ごく短期間ではありますがファインセラミックSCと98スピンパワーSCの実投比較テストを
行った結果が、本レポートなのです。

改めて本レポートを読み返し、記述表現を少し修正しながらも実投比較時の飛距離データなどは詳細に
再検証をしましたが、実投比較テストの回数がやや少ない点が心残りです。

可能であればもう少し長く、ファインセラミックSC 425XXで実投比較を重ねてから結論に導くべきだった、
というのが'20年現在の本音です。

なお、予想通りスピンパワーシリーズは'05年にモデルチェンジして『新世代先調子』と謳うロッドアクション
の『05スピンパワー』が発売され、98スピンパワーシリーズのような『SF』:先調子アクションと
『SC』:胴調子アクションの分類は無くなり、先調子ロッドアクションで一本化されました。

さらに、ファインセラミックSCの先調子アクションDNAは12スピンパワーと16スピンパワーSCまでの3世代
に継承されているようですから、これからのキャスティング競技用ロッドにも投げ易さを優先した結果として
先調子モデルが継続的に開発されるのでしょうか。

実釣用スピンパワーがモデルチェンジして、『20スピンパワー』が誕生しましたが、16スピンパワーSC
シリーズから採用された不等長変則3本継ぎが継承されて、やはり先調子路線は不変のもののようです。

その予測の一方で、スピンパワーシリーズの弟分となるアクセルスピンシリーズでは、かつての
98スピンパワーのように先調子の『タイプF』と、胴調子の『タイプR』の2種類がラインナップされています。

もしかすると、またいつか胴調子スピンパワーが復活する可能性もゼロではない、ということでしょうか。

それとも、93キススペシャルのように、#1セクションの付け替えのみで先調子と胴調子を使い分けるような
古典的かつ画期的なハイブリッドアクションのキャスティング競技用ロッドが登場するのでしょうか?

『先調子 vs. 胴調子』 の実投比較は、私にとってはこれからも永遠のテーマになりそうです。