2004年06月16日神戸中央サーフHP>SC研究初版掲載
2020年12月31日御調山SC研究所HP>SC研究追記復刻
Report #024 オシュレーション対決! スーパースロー vs. 2スピード
1. 素朴な疑問を対決!
投げ専用リールのオシュレーション・システムとしては、
@等速綾巻き『クロスラップ』
リョービ・プロスカイヤー7スーパーノーズ(1982年発売),リョービ・プロスカイヤー7セラテックノーズ
(1987年発売),リョービ・プロスカイヤー7スーパーノーズ4570(1991年発売),ダイワ・トーナメント
プロキャスター SS-45(1987年発売),ダイワ・トーナメントサーフ Z45C(2001年発売),
シマノ・08スーパーエアロ キススペシャルMgなどで採用。
A変則綾巻き『2スピード・オシュレーション』
シマノ・エアロキャスト9000EX(1981年発売),シマノ・チタノスエアロ GT8000(1985年発売),
シマノ・チタノススーパーエアロ キススペシャル(1988年発売),シマノ・97スーパーエアロ XT
(1997年発売)などで採用。
B超密巻き『スーパースロー・オシュレーション』
シマノ・スーパーエアロ チタニウム(1998年発売),シマノ・02スーパーエアロ XT-SS(2002年発売),
シマノ・スーパーエアロ テクニウムMg(2003年発売)で採用。
の3種類が挙げられます。
これらオシュレーション・システムの違いによる飛距離への影響は、キャスター達の間で「素朴な疑問」
として議論されているものの、誰一人として飛距離実測した上で比較論を展開した者はいません。
今回は、そんな「素朴な疑問」を解決するために、同一メカ&スプールでスーパースローと2スピードの
両オシュレーション機構をラインナップする、シマノ・スーパーエアロ XT及びXT-SSを用いて、
オシュレーション対決!を行いました 。
2. Specifications
シマノ・97スーパーエアロ XTとシマノ・02スーパーエアロ XT-SSのスペック比較を表1に示す。
表1 カタログスペックの比較
シマノ・97スーパーエアロ XT シマノ・02スーパーエアロ XT-SS 自重(カタログ値) 555 g 565 g 自重(ナイロン2号200m巻き実測) 585 g 594 g ストリップ仕様自重(カタログ値) 520 g 505 g オシュレーション速度 前 進 ローター約6.5回転 ローター約40回転 後 退 ローター約8.0回転 ローター約40回転 スプール
ディメンション前端径 68.3 mm 68.3 mm スプールエッジ解放角度 31 度 31 度 テーパー角度 5 度 5 度 ストローク 35 mm 35 mm ラインローラー
(ラインローラーベアリング)パワーローラーV
(ノーマルベアリング)パワーローラーV
(防錆ベアリング)ギア比 1:3.8 1:3.56 平均最大巻上げ長(ハンドル1回転当たり) 870 mm 820 mm メーカー希望小売価格(税別) 40,000円 45,700円
表2 リールおよびスプールの外観比較
シマノ・97スーパーエアロ XT シマノ・02スーパーエアロ XT-SS リール外観 スプール外観
Point@:自重……SC競技用としては重量級
カタログスペック,ライン込み実測ともにスーパースロー・オシュレーションを搭載するXT-SSが
約10g重くなっているが、実際に投げる上では自重差は体感できない。
585〜594gのリール重量は、SC競技用では許容できるギリギリの範囲内だろう。
これ以上重くなるとロッドのスウィングスピードが低下しSC競技には不向きである。
PointA:スプールサイズ……シマノ定番の35mmストローク&5°スプール
今回スーパーエアロXTとXT-SSをテストに持ち込んだ理由は、35mmストローク&5°テーパー
スプールが標準仕様であること。
なお、シマノ投げ専用リールの原点であるエアロキャスト7000EX(1981年発売)以降、
35mmストローク&5°テーパーのスプールは、シマノ投げ専用リールの定番である。
PointB:2スピード・オシュレーションについて
2スピード・オシュレーションとは、スプールが前進する際には早く、後退する際には遅く移動し、
ラインがスプールに巻き取られる周回ピッチが周期的に2スピード変速するシステムである。
元々は、超密巻きも変速綾巻きもSC競技専用改造リールに装着する超ロングストロークスプール
で、一個一個スプールを回転させながらラインを巻いていた時代に、ライン放出抵抗の低減や
トラブル低減のために先人達が編み出したテクニックである。
ちなみに元祖2スピード・オシュレーション:エアロキャスト9000EXのキャッチコピーは、
『プロキャスターの手巻きのテクニックをメカニズムで実現。
強烈なスウィングでも、ライン放出時のトラブルがありません。』
と、ライン放出抵抗の低減をアピール。
PointC:スーパースロー・オシュレーションについて
スーパースロー・オシュレーションでは、ストロークの前進と後退は等速になるが、オシュレーション
速度を大幅減速。
XT-SSではローター80回転でスプールストローク(35mm)1往復と いう超低速オシュレーションを
実現している。
さらに上級グレードのスーパーエアロ チタニウムではローター106回転でストローク(35mm)1往復,
スーパーエアロ テクニウムMgではローター110回転でストローク (40mm)1往復と、機種ごとに
オシュレーション速度をチューニングしている。
スーパースロー・オシュレーションのキャッチコピーは、
『ラインの食い込みを防いで抵抗を激減。
飛距離をアップするスーパースローオシュレーティングシステム採用。』
と、ここまで言い切っている。
PointD:Price
スーパーエアロ XTは、上位機種:スーパーエアロ テクニウムのパーツを一部流用し、剛性感と
滑らかな回転フィール,卓越した遠投性能を手軽に楽しめるモデルとして、スーパーエアロ テクニウム
の半額 (¥40,000)の価格設定で登場した。
そしてスーパーエアロ XTの登場から3年が経過した2001年に、手軽な価格設定で最上位機種:
スーパーエアロ チタニウムのDNA…スーパースロー・オシュレーション…を継承したモデルとして、
スーパーエアロ XT-SSは誕生した。
そのボディーやスプールはスーパーエアロ XTと全く同一であり、塗装色の違いや防錆ベアリング,
スーパースロー・オシュレーションを搭載することで差別化を図っていた。
当然、スーパーエアロ XTと大きな価格差は設けないだろう、と誰もが思った。
しかし、発表された標準価格はスーパーエアロ XTより¥5,700も高い¥45,700であった。
パーツリストによると、スーパーエアロ XT-SSで増えたパーツ代金は¥3,500程度である。
ベアリングを防錆処理したとしても、¥5,700の価格差にはスーパースロー・オシュレーションに対する
かなりの開発費=自信料?が含まれているようである。
この金額分を打ち消す程に飛距離がアップするのか?
あるいはライントラブルが低減されるのか?
実投比較の結果に注目である。
3. Cast-distance比較
各ロッドで投擲した際の飛距離,正確度比較結果を表3に、シンカー着地点分布を図4に示す。
表3 実投飛距離の比較結果
※実投比較に使用したロッド
シマノ・97スーパーエアロ XT シマノ・02スーパーエアロ XT-SS 上位60%平均飛距離 169.2 m 168.6 m フェアゾーン平均飛距離 167.9 m 168.1 m 最長飛距離 183.1 m 176.0 m 第1回
比較テスト
(各10投)最長飛距離 183.1 m 176.0 m 上位60%平均飛距離 174.3 m 172.8 m フェアゾーン平均飛距離 172.7 m . 172.8 m . 第2回
比較テスト
(各5投)最長飛距離 165.6 m 164.9 m 上位60%平均飛距離 164.7 m 163.8 m フェアゾーン平均飛距離 163.5 m . 163.2 m . 第3回
比較テスト
(各5投)最長飛距離 166.3 m 167.3 m 上位60%平均飛距離 163.6 m 165.1 m フェアゾーン平均飛距離 162.5 m . 165.1 m .
第1回:リョービ・スーパーD-HZ プロスカイヤー 40-425(ローライダー改6点式)
第2回:リョービ・BORON プロスカイヤー競技スペシャル 40-420(ローライダー改6点式)
第3回:シマノ・98スピンパワーSC 425XX(ハイスピンダー6点式)
比較結果@:平均飛距離……ほとんど差はない
ナイロン2号ライン+ナイロン16号力糸に競技用25号シンカーでST種目投擲テストを行った範囲に
限って結論付けると、オシュレーションの違いによる飛距離への影響はほとんど皆無といっても良い
だろう。
上位60%平均飛距離ではスーパーエアロ XT(2スピード)が0.6m優位、フェアゾーン平均飛距離では
スーパーエアロ XT-SS(スーパースロー)が0.2m優位であったが、この程度の差であれば戦闘力は
全く互角といえる 。
比較結果A:最長飛距離……こちらも大差なしか?
3回のテストセッションのうち、2回でスーパーエアロ XTの最長飛距離がスーパーエアロ XT-SSの
最長飛距離を上回っているが、テスト時の風向風速の変化などを考慮すると、大差はないと考える。
(スーパーエアロ XTのマークした最長飛距離:183.1mの投擲のみ、ほとんど無風であった。)
比較結果B:ガイドセッティングの違いによる影響……スーパースローにはハイスピンダー?
ローライダー改6点式ガイドセッティングのロッドで行った第1回,第2回実投テストでは、
スーパーエアロ XT,スーパーエアロ XT-SSそれぞれのフェアゾーン平均飛距離が0.1〜0.3m差で
しかないことから、ローライダー系ガイドセッティングではオシュレーションの違いによる飛距離への
影響はないといえる。
一方、3051系ハイスピンダー6点式ガイドセッティングのロッドで行った第3回テストでは、
上位60%平均飛距離においてスーパーエアロ XTに対しスーパーエアロ XT-SSが1.5mの差を
つけている。
平均飛距離における1.5m差というのは、投擲数が少ないためにバラツキの範囲内ともいえるが、
3051系ハイスピンダー6点式ガイドセッティングに限ってはスーパースローオシュレーションが僅か
でも飛距離アップにつながる可能性は持っているようだ。
4. テストにおける気付き点
気付き点@:ライントラブルの傾向……スーパースローはダメージ大
実投比較テストでは、やはりバックラッシュトラブルがスーパーエアロ XT,スーパーエアロ XT-SS
ともに発生している。
発生数はどちらも1回ずつであったが、スーパーエアロ XT-SSのバックラッシュはラインリリース後
2号ラインが30m程出た後でバッサリと飛び出したものであり、ダメージが大きいものであった。
一方でスーパーエアロ XTのバックラッシュはテーパーラインの中程で発生しており、テーパーライン
のみ巻き替えれば復旧可能であった。
どちらもライン巻き付けテンションのムラが発生原因と推測されるが、SC競技の本番で2号ラインの
途中でバッサリ飛び出してしまうと、以降の投擲にそのスプールは使えない。
なるべくならこのようなトラブル癖のあるリールは、SC競技用には避けるべきである。
気付き点A:扱い易さ……断然2スピードオシュレーションが扱い易い
キャスティングする際の基本として、スプールのストローク位置を最も前進した所に合わせるのは
実釣もSC競技も同じである。
これは、放出されたラインがリールのローター廻りを叩くことを防止し、人差し指へのラインキープを
自然な角度で行うための措置である。
スーパースロー・オシュレーションではこのストローク位置合わせが非常に面倒であり、いちいち
スプールを一旦外してからローターを空転させ、スプール軸(ストローク位置)が最も前進した所で
再度スプールを装着しなければならない。
うっかりすると、この操作中にテーパーラインの巻き付けテンションが緩み、投擲時にバックラッシュ…
という危険性を持っている。
ストローク位置合わせの手間とバックラッシュの危険性を考えると、2スピード・オシュレーションの
方が断然扱い易い。
5. 総合評価…メーカーのキャッチコピー通りにはいかない
1990年代末期から2000年代初期にかけて、投げ専用リールのバリエーションが随分幅広く充実している。
ドラグの有無にはじまり、スプールのストロークや勾配,エッジ形状や材質、ギアやベアリ ングへの特殊
材料使用、アルミニウムやマグネシウムなどボディー材質の違いに加え、オシュレーション・システムまで
ユーザーが自由に選択できる時代である。
ユーザーは快適なリーリングと手軽な超遠投(つまりは飛距離アップ)を求めてニューモデルに関心を示す。
ではニューモデルは本当にメーカーのキャッチコピー通りの飛距離アップが体感できるのだろうか?
20年の歴史を有する2スピード・オシュレーションと、“機械化“から僅か6年のスーパースロー・
オシュレーション。
直接対決の結果は、ガイドセッティングによっては僅かながら飛距離アップの可能性が見出せたものの、
総合的には全く互角のキャスティ グ性能であり、体感できる数値的な違いは価格差以外には何もナシ!
という結論です。
そうなると、シマノ殿に強く希望するのは、『スーパーエアロ テクニウムMg with 2スピード・オシュレーション』
の発売でしょうか。
6. 2020年12月31日追記復刻で16年前を振り返る
2004年当時、私自身はキャスティング競技用ロッドにローライダー改6点式ガイドセッティングを採用して
いたこともあり、スーパーエアロ XTとスーパーエアロ XT-SSの実投比較結果では『大差なし』との結論と、
『スーパースローオシュレーションはSC競技には向かない』との結論に至りました。
恐らく、オシュレーション速度の違いによるライン放出抵抗の変化よりも、前端径:68.3mmのスプールから
放出されるナイロンラインがローライダー系小口径ガイドを通過する際の抵抗の方が慢性的に大きいため、
このような結論に至ったものと考えます。
今考えると、テスト回数やテスト回毎の投擲数が少なく、結論を導くにはデータ母数が少な過ぎます。
ガイドセッティングの異なるロッドでもデータ採りを行い、テスト回数はできれば8〜10回は行うべきでした。
時は流れ、私のキャスティング競技用ロッドのガイドセッティングはローライダー改6点式からKW6点式に
変更されました。
オシュレーション速度の違いによる飛距離差を探求するための比較リールは、スーパーエアロ XTや
スーパーエアロ XT-SSよりも軽く、前端径:73.5mm&テーパー角度0〜4度のマルチテーパースプールを
装着した10スーパーエアロ スウィングキャストと13スーパーエアロ サーフリーダーCI4+ 35,
12スーパーエアロ フリーゲンに変遷し、比較選択肢から2スピード・オシュレーション方式のリールは消滅
しました。
2020年時点の知見では、等速綾巻きオシュレーションよりもスーパースロー・オシュレーションの方が
飛距離は優位であるとの認識であり、スーパースロー・オシュレーション同士の比較でもオシュレーション
ピッチ:1.52mmの13スーパーエアロ サーフリーダーCI4+ 35よりもオシュレーションピッチ:0.7mmの
12スーパーエアロ フリーゲンの方が飛距離は向上することを実投比較データで立証しています。
さらに、オシュレーション速度の違いによる飛距離差は1〜3%であることも立証しています。
そのような検証結果に基づき、私自身は2014年シーズンの後半戦からスーパースロー・オシュレーション
方式を採用する、11スーパーエアロ キススペシャルMg コンペエディションをSC競技用に愛用しています。
その一方で、キャスティング競技仲間の中にはスーパースロー・オシュレーション方式に対して懐疑的な
印象をお持ちの方が多いことも、事実です。
超密巻き(スーパースロー・オシュレーション)の方が飛距離アップするのか?
それとも等速綾巻き(クロスラップ)の方が飛距離が伸びるのか?
あるいは現行モデルには搭載機種の無い2スピード・オシュレーションが今でも最も飛ぶのか?
結局はリールのオシュレーション速度だけでは飛距離は決まらず、ロッドチョイスとガイドセッティングも
総合的に機能して飛距離は決定付けられるものではないか?
すべて投げ手個々のSC研究への取り組み結果次第・・・
というのが2020年時点の結論だろうか。
私自身は、間もなく迎える2021年についてもスーパースロー・オシュレーション方式のリールをSC競技用
主力機にすることになるだろう。