2004年07月19日神戸中央サーフHP>SC研究初版掲載
                               2021年01月05日御調山SC研究所HP>SC研究追記復刻

Report #025  スプール対決! 大径小勾配(PS4570) vs. 小径大勾配(Z45C)


1. トーナメントサーフ Z45U competition をシミュレーション!

SC競技用スピニングリールではシェアNo.1のダイワ・トーナメントサーフシリーズは、1987年のデビュー
以来長期にわたり正テーパースプールの標準仕様を、前端径:φ58.4〜59.5mm×ストローク:45mm/6°
勾配にこだわり続けていました。

そして2004年、新たなZ45シリーズ・ニューモデルが発表されましたが、「SC競技専用モデル」と銘打った
トーナメントサーフ Z45U competitionでは前端径:φ69.0mm×ストローク:45mm/2°勾配という特大
サイズのスプールを搭載しつつ、クラス最軽量の自重:400gを実現。

ナイロンラインで競うSC競技では3051系ハイスピンダーガイドをチョイスする選手が多いことから、
『ナイロンライン&大口径ガイドの併用で威力を発揮。糸打ちを低減し、パーマトラブルの頻度も減少』
との新遠投理論を提案。

この理論に共感し、早速トーナメントサーフ Z45U competitionを手にしたSC選手もいらっしゃるでしょう。

実は新理論とはいえ、トーナメントサーフ Z45U competitionに類似したサイズ・形状のスプールは1991年
に発売されたリョービ・プロスカイヤー7スーパーノーズ4570(以下PS4570と略称)に搭載されていました。

今回はこの『PS4570』 スプールとトーナメントサーフ Z45シリーズの源流仕様ともいえる『Z45C』スプール
をダイワ・トーナメントサーフZ45T改に装着することで、『大径小勾配 vs.小径大勾配』スプール対決!
を行いつつ、トーナメントサーフ Z45U competitionの「飛び」をシミュレーションしてみました。

果たして、メーカーのキャッチコピー通りに、新理論スプールは飛距離アップ,トラブルレスに繋がった
のでしょうか?


2. Specifications

実投比較したスプールのスペックおよび外観写真を図1に示す。

表1 実投比較スプールのスペックおよび外観比較
リール本体 ダイワ・トーナメントサーフ Z45T改
装着スプール リョービ・プロスカイヤー7スーパーノーズ4570
ナイロン1.5号用
ダイワ・トーナメントサーフ Z45C
PE1.0号用
ナイロン2号200m巻き自重 485 g 458 g
スプール
スペック
ストローク 45 mm 45 mm
前端径 70.0 mm 58.4 mm
エッジ解放角度 63 度 60 度
テーパー角度 3 度 6 度
エッジ表面処理 硬質アルマイト処理 チタン系コーティング
単体自重 74 g 50 g
スプール外観
リール装着状態外観


 Point@:自重
    今回シミュレーションに用いた『PS4570』スプールでは、マシンカット肉抜きは実施されておらず
    スプール単体質量は『Z45C』スプールより24g重い74gとなっている。
    また、リール本体への取り付けでは、スプールノブもZ45T用とZ45C用を使い分ける必要があり、
    ここでも『PS4570』スプール装着仕様では3gの質量増となっている。
    今回の比較テストでは、これら合計27gの質量増による飛距離への影響は無視する。

 スプールサイズ…大径浅溝化=飛距離UP?
    『PS4570』スプール,『Z45C』スプールそれぞれで、2号ナイロンラインが185m放出 された場合
    (飛距離では約170m)のスプール巻き取りオシュレーション・ターン数を計算により求めると、
    『PS4570』スプールは約46ターン,『Z45C』スプールは約53ターンとなる。(Z45Tの場合)
    すなわち、大径『PS4570』スプールでは小径『Z45C』スプールよりも約14%浅溝化が可能となり、
    キャスティング時に放出されるラインと接触するスプールエッジ高さも同じく14%相当小さくなる。
    このような観点から
    「大径浅溝スプールではラインとスプールエッジの摩擦抵抗が減少するために飛距離が伸びる」
    との理論が誕生したようであるが、実際には放出されるラインの体積相当が必ずスプールエッジと
    接触するのだから、浅溝=飛距離UPとは直結しないのではないか???と個人的には思う…
    そんな疑問も残るが、先の『新遠投理論』がメーカーサイドから「放出」されているようである。

 PointB:スプール勾配…パーマ対策としての小勾配化は飛距離に影響しないのか?
    『PS4570』スプールでは、バックラッシュトラブルの原因がラインの巻きグセと過剰なスプール勾配
    にあるとの思想から、「大径浅溝&小勾配設計」を採用している。
    トーナメントサーフ Z45U competitionスプールも同じ理論のようであるが、ナイロンライン&
    ハイスピンダー系ガイドの組み合わせで威力を発揮するとカタログに謳っている。
    5投のうちの上位3投の平均飛距離で順位を競うSC競技では、1投のトラブルに涙を飲むこともある
    ため、バックラッシュトラブルの回避が「平均飛距離UP」に繋がるという理論か?
    一方で『Z45C』スプールでは、テンション巻きの推奨によりバックラッシュトラブルを回避して、ライン
    放出抵抗が極限まで減らせる6°勾配スプールがあらゆるライン材質で飛距離アップをもたらすと
    カタログに謳っている。
    一体どの理論がSC競技で勝者を生むのか!?
    SC競技本番さながらに5〜10投/1クール で比較を行った結果に注目!である。

 PointC:スプールエッジの表面処理…精密マシニング加工+硬質アルマイトで十分
    『Z45C』スプールでは、超精密ダイヤモンド切削加工のスプールエッジにさらにチタン系コーティング
    を施しており、非常に滑らかな表面粗度となっている。
    一方『PS4570』スプールでは、精密マシニング加工されたスプール面全体に硬質アルマイト処理を
    施しており、目視上の表面粗度は『Z45C』スプールよりやや粗い。
    『PS4570』スプールでシミュレーションする『Z45U competition』スプールは、エッジ が赤くアルマイト
    処理されているものの、素地は精密マシニング加工であり、『PS4570』スプールとほぼ同等の
    コンディションであると推測される。

 PointD:Price…本来替えスプール供給は本体購入者への「アフターサービス」では?
    『Z45C』スプールは¥6,000の価格設定である。
    鍛造成形のうえに大掛かりなマシニ ング加工とスプールエッジへのチタン系コーティングを施した
    スプールとしては、リーズナブルな価格設定である。
    『PS4570』スプールは既に生産中止となっているが、1991年当時\4,000の価格設定は、
    鍛造成形+マシニング加工+硬質アルマイト処理のスプールとしては格安であった。
    そして新設計トーナメントサーフ Z45U competition専用スプールの価格はナント\13,000。
    アルミ無垢材からのオールマシニング加工となったことによるコストアップを考慮しても、幾分かの
    「飛距離アップ自信料」を含んでいるようである。
    これら3種類のスプールはいずれも耐食性アルミニウム合金(A6000系)を素材に使用していると
    思われるが、シマノ・夢屋ブランドの超々ジュラルミン製スプールに比べると材料費は安価なはず
    である。
    しかし、ダイワ製スプールも価格が上昇傾向にあるのが現実であり、
    「SC競技者に不可欠な替えスプールの供給は、本体購入者へのアフターサービスではなく
    立派なマーケットである」
という意思表示?にも受け取れる。


                          

3. Cast-distance比較

各スプールで実投飛距離を比較した結果を表2,図1に示す。

表2 実投飛距離の比較結果



                   図1 実投データの詳細

 比較結果@:平均飛距離……大径小勾配スプールでは平均飛距離はダウンする!
    ナイロン2号ライン+ナイロン16号力糸に競技用25号シンカーでST種目投擲テストを行った範囲に
    限って結論付けると、大径スプールによる飛距離アップ効果は無いと断言できるだろう。
    むしろ、上位60%平均飛距離では『Z45C』スプールがコンスタントに『PS4570』スプールの飛距離を
    上回っており、総平均で0.95m優位であることがわかった。

 比較結果A:最長飛距離……やはり大径小勾配スプールは劣勢
    5回の比較テスト全てで『PS4570』スプールの最長飛距離は『Z45C』スプールの最長飛距離には
    及ばず全敗となった。
    『PS4570』スプールの最長飛距離と『Z45C』スプールの最長飛距離との差は0.1〜2.9m,平均1.2m
    であった。

 比較結果B:ガイドセッティングによる影響……ローライダーでは飛距離バラツキ増大
    ローライダー改6点式ガイドセッティングロッドとの組み合わせでは、『PS4570』スプールと『Z45C』
    スプールの最長飛距離差が0.1〜0.9mであるのに対し、平均飛距離差は0.4〜2.2mに増大している。
    特にローライダーガイドセッティングの影響を受けているのが、上位60%飛距離の下位側飛距離
    であり、『PS4570』スプールと『Z45C』の最低飛距離差は2.9〜4.3mと大径・小勾配スプールでは
    不利な結果となった。
    これらのことから、ローライダーガイドセッティングの場合、特に大径・小勾配スプールではラインが
    ガイドフレームやリングを叩きながら通過することで飛距離ダウンしていると推測される。

    一方、ハイスピンダー6点式ガイドセッティングロッドとの組み合わせでは、『PS4570』スプールと
    『Z45C』スプールの最長飛距離差が0.6〜2.9mに広がる反面、平均飛距離差は0.2〜1.2mに減少
    している。
    ローライダーガイドセッティングでは大きく影響を受けていた上位60%飛距離の最低飛距離差は、
    ハイスピンダーガイドセッティングでは1.9〜-0.9mとなり『PS4570』スプールが『Z45C』スプールを
    上回る傾向も3回のテストのうち2回でみられた。
    これらのことから、ハイスピンダーガイドセッティングではラインがガイドを叩くことでの飛距離ダウン
    がなく、『PS4570』スプールのポテンシャルを最大限に発揮はしているものの、『Z45C』スプールの
    方がライン放出抵抗が小さく優位な飛距離が得られたと推測される。


 比較結果C:スクープ映像! スプールから放出されるラインの挙動

  
        《MovieへGO!》                     《MovieへGO!》

    『PS4570』スプールではスプールから放出されるラインのスパイラル振幅がやや大きくなっており、
    ラインがバットガイドを叩きながら突入しているように見える。
    『Z45C』スプールでは放出されるラインのスパイラル振幅が小さく、ラインはスムーズにバットガイド
    を通過しているように見える。


4. テストにおける気付き点


 気付き点@:バックラッシュの発生傾向……微々たる違いしかない
    のべ20投ずつ合計40投のテスト中に発生したバックラッシュは『Z45C』スプールでの1回だけであり、
    スプール勾配が大きいとバックラッシュが増えるという訳ではないことが判明した。
    糸ヨレ防止とテンション巻きの相乗効果で、6°勾配スプールでもバックラッシュを低減することは
    十分に可能である。

 気付き点A:ライン放出時の音……大径スプールでややノイジー
    『PS4570』スプールでは、ライン放出時にスプールエッジとラインの摩擦音がはっきりと聞き取れた。
    スプール勾配が小さいために、スプール後端側のラインがエッジと摩擦しながら放出されていると
    推測される。
    一方で『Z45C』スプールでは、スプールエッジとラインの摩擦音は明確には聞き取れなかった。
    スプール勾配が大きいために、スプール後端側のラインはエッジと摩擦せずに放出されていると
    推測される。


5. 総合評価…今回もメーカーのキャッチコピー通りにはいかなかった!

あくまでも類似形状スプールを用いたシミュレーション結果であるが、ダイワが新しく提案した遠投理論…
『ナイロンライン&大口径ガイドの併用で威力を発揮。糸打ちを低減 し、パーマトラブルの頻度も減少』
が覆される結論が得られました。

ここ数年で投げ専用リールの性能はもはや最高レベルに到達しており、ほんの少しの目薬,鼻薬を注入
しても大幅な飛距離アップには繋がらないのではないか?と思われます。

しかし、メーカー間のシェア争いにはニューモデルの投入が不可欠であり、ボディーやローターなどの成形
部材は10万台規模での量産が可能という理由もあってか?スプール周りのチューニングやギヤ設計への
CAEの適用,ボールベアリングの防錆処理化などを行った「ビッグ・マイナーチェンジ」がダイワの得意技に
なりつつあります。

新しい理論とそれを具現化した『ニューマシン』が次々と登場し、旧モデル・スプールとの互換性がある
ところはダイワの好ましいところですが、「ビッグ・マイナーチェンジ」の度に価格が上昇している点には
やや納得がいかない方も多いのではないでしょうか?

本物のトーナメントサーフ Z45U competitionスプールでは、スウィング時の空気抵抗をも考慮した等孔
ピッチエアインテークが加工されていますが、果たして飛距離アップに直結するのか疑問です。

あるいは「いかにもコンペティティブなデザイン」の赤いマシンは所有することで競争本能を刺激し、
アドレナリンの分泌に一役かうのかも知れません。

しかしそれだけでは勝つ ことができないのがSC競技の難しいところであり、楽しいところでもあります。
ほんの少しのアドレナリンを求めて、トーナメントサーフ Z45U competitionを所有するか、あるいは実績
に基づく自信と信念をトーナメントサーフ Z45Cに注ぎ込むか、どちらにしても勝つことを夢見て日々
トレーニングに励む者だけが勝利の美酒に酔うことが許されるのです。

あなたならどちらを選びますか?
私?取り敢えずもうしばらくはトーナメントサーフ Z45Cでしょうね。


6. 2021年1月5日追記復刻で17年前を振り返る

当時の私自身は、2000年に購入したダイワ・トーナメントサーフ Z45CをSC競技本番用リールに使用して
いました。

それより以前には、リョービ・プロスカイヤー7セラテックノーズや同スーパーノーズ4570をSC競技本番用
に使用していましたが、セラテックノーズの35mmストローク/8°勾配スプールからのスムーズなライン放出
で何度も良い記録を残せていただけに、小径・大勾配スプールへの執着心をかなり強く持っていました。

そのような背景ですから、当然ダイワが提唱した、
『ナイロンライン&大口径ガイドの併用で威力を発揮。糸打ちを低減 し、パーマトラブルの頻度も減少』
という、トーナメントサーフ Z45U conpetitionのコンセプトに対してもアンチ派予測を持っての比較検証
だったと記憶しています。

このレポートとは別に、小径大勾配スプールのダイワ・トーナメントサーフ Z45Cと大径小勾配スプール
のシマノ・スーパーエアロ テクニウムMgとの実投比較も行い、データに基づく揺るぎない信念として、
ダイワ・トーナメントサーフ Z45CがSC競技本番用リールとしては最強マシンであるとの認識でした。

そのような経緯もあり、トーナメントサーフ Z45Cの駆動系パーツが摩耗劣化した2006年に代替機として
トーナメントサーフ Z45U conpetitionを購入しましたが、SC競技の際には小径大勾配の『Z45C』スプール
を愛用し続けていました。

しかし、この検証を行った10年後の2014年には考え方は一変し、SC競技本番用リールは大径小勾配
スプールのシマノ・11スーパーエアロ キススペシャルMg コンペエディション(以下CE)に変更しています。

事前に約1年に及ぶ実投比較検証を行い、ダイワ・トーナメントサーフ系のクロスラップ&小径大勾配
スプールとシマノ・スーパーエアロ キススペシャルMg CE系の超密巻き&大径小勾配スプールで、
より飛距離が優位となるリール本体&オシュレーション方式&スプールディメンションを実投評価した結果
からの決断です。

これまでのSC研究の取り組みでは様々な投げ専用リールを徹底検証してきましたが、そこで得た結論が
スプールのディメンションでもなくオシュレーション方式でもなく、実はロッドに組み付けたときのリール重心
バランスと適度な重量感から得られるスウィングスピードの加速感こそが飛距離安定化のキーポイント
だと考えたのです。

しかし、この選択がいつまでも最善だとは限りません。
私自身のキャスティングポテンシャルは常に変化していくでしょう。
(年齢的にもパフォーマンス低下は避けられません。)

ですから、『どの仕様のリールが自分自身の投げ方に最適だろうか?』という検証を常に行っています。
もしかすると、2021年シーズンにはシマノ・スーパーエアロ キススペシャルMg CEとは異なるリールを
SC競技本番に起用しているかも知れません。

もしかすると、ダイワ・トーナメントサーフ Z45U conpetitionがいつかSC競技本番用リールに起用される
可能性もゼロではありません。