シマノ
 スーパーエアロ チタニウム (SA190) + スーパーエアロ テクニウム用スプール 

2015年3月7日現在

飛距離指数:1.035 (
★★★★★
平均飛距離:166.01m

(テスト回数:11回)

   

スペック スーパーエアロ チタニウム (SA190)
発売時期 1998年
スプール スプールタイプ スーパーエアロ テクニウム用 ナイロン2号スプール
前端径 φ63.0mm
算出後端径 φ69.1mm
ストローク 35mm
勾 配 5度
エッジ開放角度 57度
全 長 52.1mm
糸巻き量 ナイロン2号-250m
材 質 本体:アルミニウム合金
リング:チタンコート・ステンレス鋼
スカート なし
カタログ自重(計算値) 523g
ナイロン2号糸込み質量 541g
フルストローク全長
オシュレーション方式 円筒カム複軸
等速:0.41度密巻き
前後各47ターン:0.74mmピッチ
ボールベアリング 14個(うち1個ローラーベアリング)
ラインローラー パワーローラーV
(ボールベアリング2個内蔵)
マスターギヤ ジュラルミン
(冷間鍛造)
メインシャフト アルミニウム合金
φ6.5mm
ボディー&ローター チタン合金製ボディー & アルミニウム合金製ローター
ハンドルタイプ 左専用/85mm
ハンドルグリップ エラストマー樹脂
ロータ回転方向 時計回り
ギヤ比 1:3.8
メーカー希望小売価格 120,000円(税別)
現在では、メタルボディー&ローターがもたらすリールの剛性感は、投げ専用リールに限らず多くの
ジャンルでフラッグシップモデルのリールには欠かせない「標準スペック」となっている。

リールに求める剛性感が増して、軽量でありながら駆動系パーツの軸ブレが無くギアの噛み合わせ
精度に上質さを求める風潮が定着したのは実はそれほど以前では無く、ほんの20年ほど前の
出来事である。

1980年代中頃から10数年続いたカーボン樹脂製ボディー&ローター全盛期には、リールの軽量化
が優先された結果ボディー&ローターだけで無くスプールもカーボン樹脂製パーツが多用されて、
ハンドルを回した際のローター周りの軸ブレ感やキャスティング時のリール本体やスプールの捻れ感、
そしてリーリング時のギアの噛み合わせのざらつき感はあまり褒められたものではなかった。

それでも、各釣具メーカーから発売されるストローク35〜45mmの投げ専用リールの自重値は450g
前後の軽量スペックとなっており、キャスティング時の振り切り感の良さと実釣時の疲労軽減効果が
得られることを積極的にアピールしていた。

しかし1990年代後半から状況は変化する。

1997年にメタルボディーを採用したスーパーエアロ テクニウムが発売され、ボールベアリング14個
を精密に保持することで駆動系パーツの回転精度が大幅に向上した恩恵として、ハンドルに軽く
回転力を与えただけでリールの駆動部はぶれることなく安定して回転を続けることに多くのユーザー
が衝撃を受けたことだろう。

さらに翌年、何とシマノは投げ専用リールのボディー材質にチタン合金を採用した。
それが、スーパーエアロ チタニウムだ。

過去30数年を遡っても、リールのパーツにチタン合金が使用されたモデルはあるが、ボディー部材
にチタン合金を採用したのは、後にも先にもスーパーエアロ チタニウムただ一機種のみである。

アルミニウム合金やマグネシウム合金ではなし得ない、最高級の強度と耐久性,駆動系パーツの
保持精度を求めての部材選定だと思うが、複雑形状への成形性が悪いチタン合金をリールの
ボディー形状に成形するということは、生産台数が限定されることと製品価格の上昇に直結する。

スーパーエアロ チタニウムのボディー部材成形方法としてはロストワックス法か粉末焼結法,または
鍛造法のいずれかを採用していたと推測される。

可能性が高いのはロストワックス法であるが、この工法は製品形状となるモデルをワックス(ロウ)
で製作し、そのワックスモデルの表面にセラミックス粉末を無機質の粘結剤で粘着させてモールド
(鋳型となる殻)を形成する。

製品形状となるワックスモデルには溶けたチタン合金をモールド内に流し込むための湯道となる
円柱形状部も付け加えており、その湯道モデルの最端部はセラミックス粉末でモールドされずに
露出させて溶融チタン合金を流し込むための「湯口」とする。

製造したい部材の数だけワックスモデルとセラミックスモールドを製作する必要はあるが、モールド
の湯口に溶融チタン合金を流し込むと熱でワックスモデルは蒸発して、代わりにワックスモデルの
形状のチタン合金鋳物ができあがる仕組みだ。

ただし、実際のところスーパーエアロ チタニウムのパーツでどこからどこまでがチタン合金製なのか
は不明であり、 鍛造法で成形している可能性も少なからずある。
あくまでも、推測される製造プロセスの解説と捉えていただきたい。

かくして、チタン合金材による超高剛性のリールボディー成形が行われたものと推測されるが、残念
ながらロストワックス法にしても粉末焼結法や鍛造法にしても、チタン合金製のリールボディー部材
を安価に大量生産する工法ではない。

もの作りの立場で部品製造が困難だから後継機種が誕生しなかったのか、それともチタン合金材の
選定にユーザーの理解が得られずに後継機種が誕生しなかったのかは不明であるが、
スーパーエアロ チタニウムは一代限りで消滅したものの、投げ専用リールの歴史に名を残した銘機
となっている。

リール本体を後方から見た容姿においても特殊な製法によりボディーを形成していることが窺えるが、
通常は左右対称かそれに近いデザインでボディーは成形されるのが、スーパーエアロ チタニウム
ではリールフットの部分以外は明らかに左右非対称のボディー形状となっている。



超高強度材質を惜しげも無く使用する代わりに、従来モデルでは常識的なデザイン手法であった
左右対称形状のボディーとはせずに敢えて非対称のボディーを設計したスーパーエアロ チタニウム。

そんな技術的背景を持つだけに造りも極めてストイックに仕上げられている。
ハンドルを回した際の駆動系パーツの回転精度は他のどの投げ専用リールよりもズバ抜けて
シルキーであり、外装の一部を鏡面仕上げとしたデザインも、一部のユーザーに対してはその心を
鷲づかみにする魅力を持っていた。

超高剛性ボディー材質であるチタン合金(比重:4.1〜4.4)はアルミニウム合金(比重:2.7)や
マグネシウム合金(比重1.8)に比べて比重が大きいことと、3段階の減速ギアユニットを搭載した
「スーパースロー・オシュレーションシステム」を採用したことによるパーツ重量の増加により、
カタログ自重値は560gと歴代投げ専用リールの中でもかなりの重量級マシンとなっている。

なお、今回の実投テストではスーパーエアロ テクニウム用ナイロン2号スプールを装着していたので、
ライン込み自重は541gとなっており標準仕様よりは軽快にキャスティングを重ねることができた。

さらに、スーパーエアロ チタニウムの重心レイアウトが優れている恩恵か、合計11回行った実投
比較では自重差が100gほどもあるダイワ・トーナメントサーフ ベーシア45Cとの比較対決時にも
スウィングスピードの低下をあまり感じることはなく、各比較対決リールに対してそれぞれ勝ち越す
ことができた。

表2 スーパーエアロ チタニウム&スーパーエアロ テクニウム用ナイロン2号スプールでの実投比較データ  
比較対決リール BM
飛距離指数
BM
平均飛距離
スーパーエアロ チタニウム
スーパーエアロ テクニウム用
2号スプール
テストロッド
平均飛距離 飛距離指数

ダイワ・トーナメントサーフ
ベーシア45C
1.031 164.12m 165.00m 1.036 リョービ・BORONプロスカイヤー
競技スペシャル 40-420
1.031 164.86m 168.61m 1.054 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425
1.031 177.96m 171.52m 0.993 リョービ・BORONプロスカイヤー
競技スペシャル 40-420
1.031 169.10m 171.78m 1.047 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425
1.031 154.57m 151.60m 1.011 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425

シマノ・スーパーエアロ
キススペシャル
1.029 154.83m 160.79m 1.069 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425
1.029 177.14m 184.10m 1.070 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425

リョービ・プロスカイヤー7
スーパーノーズ4570
1.015 140.25m 142.63m 1.033 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425
1.031 171.21m 173.85m 1.031 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425

ダイワ・ウイスカーTHEキャスター
EX-8000
1.019 170.88m 170.69m 1.018 リョービ・BORONプロスカイヤー
PROTOTYPE 40-425
1.019 164.80m 165.55m 1.024 リョービ・BORONプロスカイヤー
競技スペシャル 40-420
スーパーエアロ チタニウム 総合評価
(スーパーエアロ テクニウム用ナイロン2号スプール)
166.01m 1.035

では、スーパースロー・オシュレーション搭載モデルでの新旧対決を行うとどの程度の飛距離差が
あるのだろうか?

初代スーパースロー機:スーパーエアロ チタニウムと五代目スーパースロー機:
12スーパーエアロ フリーゲンの直接対決を行った結果を表3に示すが、5回の比較テストでは
12スーパーエアロ フリーゲンが3勝2敗で勝ち越している。

やはりナイロン2号ライン込みのリール自重が458gの12スーパーエアロ フリーゲンと、541gの
スーパーエアロ チタニウムとでは、87gの質量差が影響したのか、僅かではあるが飛距離をロス
しているようだ。

それでもスーパーエアロ チタニウムの飛距離指数の総合評価値は1.035となっており、直接対決
では敗れたものの12スーパーエアロ フリーゲンの飛距離指数:1.034を1/1000ではあるが上回る
値をマークした。

比較テストの回数がやや少ないので明確に断言はできないが、1998年に発売された初代機と
2012年に発売された五代目機との飛距離差はほとんど無く、傾向としてはより新しく軽量なモデル
の方がコンスタントに好飛距離を得ることができる、という結果になるだろうか。

表3 12スーパーエアロ フリーゲン vs. スーパーエアロ チタニウム 直接対決実投比較結果
リール機種 シマノ
スーパーエアロ フリーゲン
シマノ
スーパーエアロ チタニウム
評価項目 上位60%
平均飛距離
飛距離指数
(BM)
上位60%
平均飛距離
飛距離指数
第1回テスト 174.10m 1.034 168.61m 1.001
第2回テスト 176.34m 1.034 171.51m 1.006
第3回テスト 175.52m 1.034 184.10m 1.085
第4回テスト 170.48m 1.034 170.69m 1.036
第5回テスト 168.49m 1.034 165.55m 1.016
総合評価 172.99m 1.034 172.09m 1.029

ところで、このスーパーエアロ チタニウムが初めて採用した『スーパースロー・オシュレーション』は
1970年代のキャスティング・トーナメンター達が手製コップ型スプールにラインを手巻きしていた時代
に考え出されたテクニック:「密巻き」をメカで実現したオシュレーションだそうだ。

スーパースロー・オシュレーションを搭載するエアロシリーズは後にも続くが、オシュレーション速度は
標準装備されるスプールタイプのレンジに応じて若干のチューニングを受けている。

モデル毎のオシュレーション速度仕様の一覧を表4に示すが、細糸から太糸までカバーするモデルは
オシュレーションピッチがやや大きく設定されているようだ。

一方で、極細PEラインでの遠投キス釣りに主眼を置く三代目:03スーパーエアロ テクニウムMgから
五代目:12スーパーエアロ フリーゲンまでのモデルはオシュレーションピッチが約0.7mmとなるよう
仕様が統一されているようだ。

表4 スーパースロー・オシュレーション搭載機毎のオシュレーション速度仕様一覧
モデル 発売年 スプールタイプ ストローク 1ストローク
ローター回転数
オシュレーション
ピッチ
初代 スーパーエアロ チタニウム 1998年 ナイロン1.0〜4号
PE0.8〜3号
35mm 47回転 0.74mm
二代目 スーパーエアロ XT-SS 2001年 ナイロン1.5〜4号
PE1.0〜3号
35mm 40回転 0.88mm
三代目 03スーパーエアロ テクニウムMg 2003年 PE0.4〜1.2号 40mm 56回転 0.71mm
四代目 11スーパーエアロ キススペシャル コンペエディション 2011年 PE0.8〜1.0号 35mm 50回転 0.70mm
五代目 12スーパーエアロ フリーゲン 2012年 ナイロン1.5〜1.5号
PE0.8〜1.0号
35mm 50回転 0.70mm
六代目 13スーパーエアロ サーフリーダー CI4+ 35 2013年 ナイロン1.0〜3号
PE1.0〜2.0号
35mm 23回転 1.52mm

では、これから先の投げ専用リールにスーパースロー・オシュレーションシステムは受け継がれるの
だろうか?
2018年のシマノ・投げ専用リールラインナップからは、スーパースロー・オシュレーションシステムを
搭載するリールが削減されて、16スーパーエアロ キススペシャル コンペエディションと、廉価版:
スーパースロー5・オシュレーションシステムを搭載する14スーパーエアロ スピンジョイ 35のみと
なってしまった。

一般ユーザーのニーズは、ストイックなスーパースロー・オシュレーションシステムよりもクラシカルな
等速オシュレーションシステムへの回帰路線が主流になっているということなのだろうか?

またいつか、歴代スーパースロー・オシュレーションシステム搭載投げ専用リールを超えるような
スムースなライン放出を実現する、新しいオシュレーションシステムを搭載する投げ専用リールが
発売されることを楽しみに待つとしようか。