'08年08月08日

Report #062  祖父・孫対決! ダイワ・プロキャスター EX-9000S
                    vs. トーナメントプロキャスター SS-45U


1. とあるきっかけで祖父・孫対決! & 祖父・ひ孫コラボ!

4月のある日、当HPにも相互リンクを頂いております、『拙者の投げ釣り』様掲示板を拝見しており
ますと、どこかで見たようなリールで大変盛り上がられています・・・

とにかく大きい! 随分昔のリールなのにベールレス! スケバン刑事みたいなロングスカート!
とほとんどがあまりの大柄さに驚愕のコメントが林立。

今から30年近く前、1979年に発売されたプロキャスターEX-9000Sに関する話題であります。

オールドタックル・フェチの私もついついお話に加わらせて頂きましたが、このときふと考えたのが、
「プロキャスターEX-9000S vs. トーナメントプロキャスターSS-45U」の『祖父・孫対決』 。
そして、テストロッドには「サンダウナーコンペティションU」を使用した『祖父・ひ孫コラボ』 。

実はReport #048で取り上げた『投げ専用リール・インプレッション』のプロキャスターEX-9000S実投
テストでは、S-GFXやS-DHZ,BORONなどリョービ・プロスカイヤーシリーズでテストしたものであり、
ダイワ製ロッドとのコラボレーションデータではありませんでした。

また、比較したリールも28〜35mmストロークマシンばかりであり、ストローク:40mmのプロキャスター
EX-9000Sと同等以上のロングストロークマシンとの直接対決は、『神戸中央サーフ公式HP』中の
SC研究;Report #030 歴史対決! 80's vs. 90'sにおいてシマノ・チタノススーパーエアロGT7000
と、リョービ・プロスカイヤー7スーパーノーズ4570との対決データがあるのみ。

同一血統である近代ダイワ・サーフリールの象徴でもある45シリーズとの直接対決は未知の世界
だったのです。

そこで、今回はダイワ最新キャスティングロッド;サンダウナーコンペティションU40-425Sに
プロキャスターEX-9000Sを組み合わせて、ダイワ・サーフリールの世代では「孫」世代に相当する
45マシーン;トーナメントプロキャスターSS-45Uとの直接対決!を行いました。


2. スペック比較

表1にプロキャスターEX-9000SおよびトーナメントプロキャスターSS-45Uのスペック比較表を示す。

表1 スペック比較表
スペック プロキャスター
EX-9000S
トーナメントプロキャスター
SS-45U
発売時期 1979年 1991年
スプール 前端径 φ62.9mm φ59.6mm
算出後端径 φ69.9mm φ69.1mm
ストローク 40mm 45mm
勾 配 約5度 6度
エッジ開放角度 約20度 50度
全 長 92.5mm 67.8mm
糸巻き量 ナイロン2号−250m ナイロン2号−200m
材 質 本体:樹脂 本体:アルミニウム合金
リング:樹脂一体 リング:アルミニウム合金一体
スカート あり なし
カタログ自重 650g 495g
ナイロン2号糸込み質量 662g 518g
フルストローク全長 266mm 205mm
オシュレーション方式 マスターギヤ式
正弦波:9.5度綾巻き
前後各2.3ターン
円筒カム複軸
等速:2.8度綾巻き
前後各9.25ターン
ボールベアリング 2個 5個
ラインローラー ハードクロム-V型 ベアリング内臓チタンコート-U型
マスターギヤ アルミニウム合金
(ダイカスト)
超ジュラルミン
(マシンカット)
メインシャフト スチール
φ5.5mm
チタン合金
φ6.0mm
ボディー&ロータ カーボン樹脂製ボディー&ロータ ウイスカー強化カーボン樹脂製ボディー
マグネシウム合金製
ロータ
ハンドルタイプ 左専用/85mm 右専用/85mm
ハンドルグリップ 樹脂 ソフトタッチ樹脂
ロータ回転方向 時計回り 時計回り
ギヤ比 1:4.6 1:4.1
メーカー希望小売価格 26,000円 37,300円
まず特筆すべきはプロキャスターEX-9000Sの大きさであろう。

スプールを最も前進させた状態でのボディー・リヤエンドからスプール前端までの長さ:フルストローク
全長は何と266mmもある。
対して、トーナメントプロキャスターSS-45Uのフルストローク全長はEX-9000Sより約60mmコンパクト
な205mmとなっている。

通常キャスティング時には、リールのスプールが最も前進した状態でラインをピックアップしてベール
アームを反すのであるが、EX-9000Sではスプールが最も前進した状態でラインをピックアップすると、
スプール後端部がラインキープする人差し指よりもさらに前方に飛び出したレイアウトとなる。

このような状態では、人差し指のラインキープ角が狭角V字形となり、スウィング時のラインテンション
が急激に人差し指にかかるため、最適なリリースタイミングを逃し易くなる傾向にある。

また、662gもあるリール質量の重心位置がリールフット部よりもスプール方向に移動するため、
キャスティング時にはロッドを押し込む動作方向(スウィングプレーン)にもバラツキを生じ易い。

そこで、EX-9000Sで投擲する際には、スプールを最も前進させた位置ではなく中間付近でラインを
ピックアップしてベールアームを反すことで、人差し指のラインキープ角が直角をなしてスプール
後端部とクロスした状態となるよう調節。

この調整により、リール質量の重心位置がリールフット部に近付くため、キャスティング時にロッドを
押し込む動作方向も安定傾向となる。

一方、SS-45Uではセオリー通りにスプールを最も前進させると丁度人差し指の前にスプール
後端部があり、人差し指にキープしたラインはほぼ直角にスプール後端部とクロスする。

この状態で、EX-9000Sと比べて144g軽量なリール質量:518gの重心位置は、リールフット直下の
ロータ付近に存在するため、SS-45Uではスウィング動作中のラインテンションがリニアに人差し指
に感じられ、リリースタイミングの安定化とフィニッシュでのロッドを押し込み動作方向の安定化も
容易となるはずだ。

これらスペック比較だけでは語れない特性差が要因となり、遠投性能が正当に評価されなければ
実投比較の意味がなくなる。

実投テストでは、キャスティング競技の1クール(5投)よりも繰り返し投擲数を多く採り、8投の実投
テスト中上位60%(5投)の飛距離平均値で比較を行った。


プロキャスターEX-9000S
  リールフットからスプール後端までの距離に注目!

                  
                  トーナメントプロキャスターSS-45U
                    ボディーの厚みを除けば現行モデルとの差を感じないフォルム

3. 実投比較の結果

2回行った実投対決の結果を表2に示す。

表2 実投対決の結果
テスト回 項 目 プロキャスター
EX-9000S
トーナメントプロキャスター
SS-45U
第1回テスト
'08年6月22日
@ 171.2 176.4
A 170.5 172.7
B 168.8 171.2
C 168.2 171.2
D 168.2 169.0
平均飛距離 169.36 172.11
飛距離指数 1.010 1.026 ※
第2回テスト
'08年7月6日
@ 172.1 176.0
A 171.3 176.0
B 169.6 173.6
C 168.7 168.0
D 166.2 167.2
平均飛距離 169.60 172.17
飛距離指数 1.011 1.026 ※
総合 総平均飛距離 169.48 172.14
総平均飛距離指数 1.010 1.026 ※
※トーナメントプロキャスターSS-45Uの飛距離指数は長期テストの保有データより算出

2回のテストともに、テストコンディションはそよそよと正面からの微風が吹く中、時々無風になること
があったため、上位60%飛距離の値はEX-9000S,SS-45Uともにややバラツキが大きくなっている。

しかし、2回のテストそれぞれの平均飛距離は169.36m,169.60m対172.11m,172.17mと、安定した
レンジに収束しており、再現性,信頼性の高いデータであるといえるだろう。

結果的に、EX-9000SはSS-45Uに3m弱(2.66m)惜敗したのだが、この飛距離差の要因がスプール
設計によるものか、重量差によるものか、それとも並行巻き機構のあるなしか、どの要因が飛距離
を決定付けたのかは結論を出すに至っていない。

ただ、実投テストの印象では率直に重い・軽いで飛距離が決まったように感じている。

ライン込みでリール自重が662gもあるEX-9000Sでは、さすがにスウィングスピードが損失している
感じを受けたが、リリースしたシンカーはなかなか力強い弾道でテイクオフしていた。
恐らく、リール質量が重い分だけロッドをシャクらずに素直に曲げて投げているのだろう。

その証拠にもなるだろう、連続8投のテスト投擲では、EX-9000Sのフェアゾーン投擲率が平均88%
に対して、SS-45Uは平均71%と明確に一クラスの差異が認められた。

EX-9000Sでは、自重のあまりの重さにより自然とタメが効き、シャクらずスムーズにスウィング動作
を行えるメリットがあるようだが、それにしてもやはり重いのでテスト投擲も8投くらいが限界だろう。
これ以上連続で投げると、肘や手首が悲鳴を上げそうなくらいに身体が疲労したものである。

結果的には長期テストで得られているSS-45Uの飛距離指数:1.026という値に対して、EX-9000S
では当初の飛距離指数データ:0.997よりも0.013ポイントアップの1.010となり、これまでのテストも
含めた総平均飛距離指数は1.002に向上した。

つまり、投げ専用リール飛距離指数のベンチマークに位置付けしているリョービ・プロスカイヤー7
スーパーノーズ(自重:608g)よりもほんの少し飛距離が向上するクラスとなる。

EX-9000Sは、並行巻き機構を搭載せず、自重が662gもある原始的投げ専用リールであり、現代の
45mmストロークマシンほど軽快で安定的な遠投性能は発揮しなかったが、重量さえ同等の値に
収まれば案外飛距離レベルは互角になるのでは?とも思う。
それくらい、ライン放出における抵抗感,失速感は感じられなかったのが印象的だ。

4. サンダウナーコンペティション-U 40-425Sとのコラボ・フィーリング

ロッド:サンダウナーコンペティション-U 40-425Sとのコラボでは、以前テスト時に組み合わせた
リョービ・S-DHZプロスカイヤー,S-GFXプロスカイヤーとは全く異なるキャストフィール故に、
SS-45U,EX-9000Sともに飛距離に安定感があった。

サンダウナーコンペティション-Uでは、リョービ・プロスカイヤーシリーズに比べると大幅に細身・
軽量設計となっており、ロッドのブランクス径はリールシート取り付け部付近で3mm程度細く、
質量も100〜150g程度軽い。
さらに、穂先セクションを軟らかめに仕上げた先調子仕様のためスウィング動作の初期にシンカー
荷重をロッドに乗せることが、プロスカイヤーシリーズよりも幾分か容易である。

これらの要因で、超高弾性カーボン材を使用していながらサンダウナーコンペティション-Uの
キャスタビリティーは大幅に向上しており、プロスカイヤーシリーズでのテスト時よりも飛距離
データの安定感が増した。

結果的に、EX-9000Sは以前のテストデータより飛距離指数が若干向上しているし、SS-45Uに
ついても上位機:トーナメントサーフZ45Cと同等飛距離に安定していることは今回のテストに並行
して確認済みである。

印象的には、サンダウナーコンペティション-Uがシンカー荷重を受け止めて徐々にしなりを増して
いくプロセスでは、リール質量:662gのEX-9000Sがよりリニアにロッドの曲がりを利き腕に感じる
ことができる。

残念ながらリールが重いためにスウィングスピードは遅くなってしまうが、フィニッシュで利き腕の
押し込みが斜め上方40度辺りに自然と安定し、抜け弾や引掛け弾を生じることなく理想的弾道
角度でシンカーがテイクオフする比率が高く、投擲の一投一投を十分に楽むことができた。

一方、リール自重:518gのSS-45Uでは軽い分だけEX-9000Sよりも素早く、しっかりとロッドを
押し込むことができる印象で、飛距離はEX-9000Sに比べて常時3m程度優っていた。

やはりリールが軽いとスウィングスピードが速くなり、振り抜きが素早くなるために、シンカーの
初速も向上する印象だ。

ただし、リールが軽いが故にシャクリ上げや抑え込みなど投擲精度を阻害するようなミスを引き
起こす傾向も時々であるがみられた。

このあたりの特性差が、先のフェアゾーン投擲率:EX-9000S=88% vs. SS-45U=71%という
数値差につながったものと推測する。

5. まとめ

総合すると、リール質量が重い場合にはスウィングパワーを一部ロスすることもあるのだが、ロッド
を曲げ込むプロセスから反発挙動に移り行くプロセスでは、軽いリールよりも重いリールの方が
フィーリングが良化することもあることが判明した。

ただし、飛距離の絶対値は軽いリールの方が断然有利であり、幾分かフェアゾーンを逃す危険率
が発生するものの上位60%平均飛距離では2〜3mのアドバンテージを築くことができる。

とは言っても、軽ければ軽いほど飛距離の絶対値が大幅に向上するのか?というと、今現在の
知見ではノーとなる。

それは、518gのSS-45Uでも飛距離指数:1.026と歴代投げ専用リールの中でも優秀な飛距離指数
を維持している点と、さらに100g近く軽量なトーナメントサーフZ45C(自重:435g)でも飛距離指数は
1.027とSS-45Uとほぼ同等の値でしかないことから導かれる結論だ。

キャスティング大会の本番で戦闘能力が十分とは言えないレベルであるが、662gも質量があり並行
巻きや糸ヨレ防止機構を搭載しない30年近く前の設計仕様であるプロキャスターEX-9000Sの遠投
性能は、軽量ロングストローク並行巻きと糸ヨレ防止機構を搭載する現代投げ専用シールに比べて
も「たったの」3m差でしかない、というのが今回のテストにおける結論である。

つまり、この30年でリールにより飛距離が伸びた分量は3m、10年で1mということだろうか。
タックルではない、やはり練習あるのみ、ということだろう。

   
プロキャスターEX-9000S                 トーナメントプロキャスターSS-45U
 with サンダウナーコンペティション-U40-425S   with サンダウナーコンペティション-U40-425S