'09年02月28日

Report #066  ダイワ・サーフリール ラインローラー用ボールベアリングについての検証


1. ラインローラーベアリングは消耗品だ!

日頃キャスティングの競技や練習に愛用している、ダイワ・トーナメントサーフZ45UCompetitionとZ45C,
トーナメントプロキャスターSS-45U。
そして、実釣に愛用しているダイワ・パワーサーフQD4000。

いずれも、ラインローラー軸受け部にボールベアリングを内蔵するサーフリールであるが、これらのダイワ
純正品ボールベアリングではSUS440Cステンレス鋼に防錆機能を高める表面改質処理を行った、
『CRBB』と称するものが一個1,050円の価格で販売されている。

一般的に「ステンレス」と呼称される『18-8ステンレス鋼』=SUS304が、低炭素含有量で比較的軟らかい
オーステナイト組織を形成するのに対し、SUS440Cでは炭素含有量が多いために焼き入れ・焼き戻し
処理を施すことで緻密なマルテンサイト組織を形成し、硬くて強靭な材料特性を発揮する。

さらに、SUS440Cもステンレス鋼の一種であるからCr(クロム)を含有しており、このクロムの化合物が
結晶粒界に析出することで一般的な炭素鋼,工具鋼よりは耐食性が優れる。

しかし一方で、成分中のクロムと炭素が化合するためにSUS440Cの耐食性はSUS304よりも劣り、海水
やその飛沫に曝されるリール用ボールベアリングでは、防錆機能を高める表面改質が必要となるようだ。

このラインローラー用ボールベアリング、規格的には外径:8.0mm,内径:5.0mm,厚さ:2.5mmの両シールド
タイプに相当し、『850ZZ』という記号で表示されるボールベアリングであれば互換性がある。

この『850ZZ』規格のボールベアリングはラジコンカーの駆動部にも多用されているらしく、ラジコン用品
ショップに行けば様々なメーカー製のものが販売されている。

これら、ラジコン用『850ZZ』規格ボールベアリングのほとんどは安価な非ステンレス系の材質で作られて
おり、2〜10個入りパックで一個当たりの単価が100円〜400円程度と、ダイワ純正ベアリングに比べると
非常にリーズナブルである。

そもそもステンレス鋼製ボールベアリングでは一般的なステンレス鋼;SUS304より耐食性が劣る訳で
あるから、それなら敢えて安価な非ステンレス鋼製ボールベアリングを使用し、こまめに水分やゴミを
洗浄・除去して表面に低粘度の潤滑油か高ちょう度のグリスを塗布すれば、錆,腐食を回避することは
可能である。

まして、キャスティング競技用リールに限定すると、海に向かって投擲練習をする場合を除けばライン
ローラー部のボールベアリングが急速に腐食することは基本的にあり得ない。

それでも、長期的使用により微小な砂塵などの異物巻き込みや封入グリスの経時的劣化に伴う回転
不具合は生じるのだから、定期的なボールベアリング交換を行えばこれらラジコン用『850ZZ』規格の
ボールベアリングをダイワ製サーフリールのラインローラー部に流用することが可能である。

そう、ラインローラー部のボールベアリングは「メンテナンス・フリー」ではなく「要メンテナンス・パーツ」
であり、かつ定期的な交換が推奨されるべき「消耗部品」なのだ。

今回は、これらラジコン用『850ZZ』規格ボールベアリングのうち、価格の異なる3種類について実機
テストを行った、費用対効果の検証結果をレポートしよう。

2. テストしたベアリングの紹介

今回テストした『850ZZ』規格のボールベアリングは、以下の3種類。

@スクワット社製 ST075 (10個入り)
  標準価格\1,050〜実購入価格\945 (1個当たり約95円)
  パッケージには8個入とあるが最新入荷品は10個入り。お買い得感:◎
  同社からは高回転用ドライタイプ・ボールベアリングも発売されているが、こちらはスタンダードタイプ。

A京商社製 BRG002 (4個入り)
  標準価格\1,000〜実購入価格\893 (1個当たり約223円)
  同社からはステンレス鋼製同サイズのボールベアリングも発売されているが、こちらはノーマルタイプ。

Bタミヤ製 850ラバーシールベアリング (4個入り)
  標準価格\1,680〜実売価格\1,344 (1個当たり約336円)
  こちらは既にダイワ・サーフリールへの流用が一般的。テストした3種類中最も高価。

特徴的には、@とAがメタルシールドタイプで、Bはラバー(非金属)シールドタイプ。
ダイワ純正ボールベアリングもメタルシールドタイプであるが、シールドタイプのボールベアリングでは、
一般的に内輪と外輪との間に並んだボールの周囲に比較的高ちょう度(軟らかい)のグリスが塗布
された状態で、ベアリングの両サイドをシールド板で遮蔽している。

従って、シールド板の外側から潤滑油やグリスを新たに塗布してもそれらが中のボールを潤滑すること
はなく、単にボールベアリング表面の錆や腐食を予防する程度の効果しか得られない。

ただし、極低粘度で浸透性が高い潤滑油をシールドベアリングの表面に塗布した場合には、潤滑油が
シールド板と内・外輪との間の微小な隙間から浸透し、封入されていたグリスを溶解・分解してしまう
ことでボールベアリングの性能を変化させることがある。

要するに、シールド板の材質が金属であれ非金属であれ、シールド内部への水,油分,異物の侵入
による封入グリスの劣化や、ボールそのものの磨耗粉によってボールベアリングの劣化が進行する。
ボールベアリングの劣化は即ちラインローラーの回転性能低下を引き起こし、リールで巻き取ったライン
にヨリが蓄積することになる。

今回のテストでは、各ボールベアリングを装着直後の初期性能と長期使用による劣化速度について、
ラインローラーの回転状態,滑らかさやラインへのヨリの蓄積度合いによって評価を行った。

3. テストの結果

@スクワット社製 ST075
  今回紹介した3種類のボールベアリングのうち、スクワット社製についてはラインローラー部に組み
  付けてすぐの初期性能に若干のザラつき感がある。

  しかし、十〜数十投の投擲練習でラインの巻き取りを行えばボールベアリングの回転はダイワ純正品
  と同等に滑らかとなり、この状態で4ヶ月〜6ヶ月間(ラインの巻き取り回数では300〜400回に相当)は
  性能が維持される。

  これ以上長期間ボールベアリングを交換せずに使用すると、徐々にラインにヨリが蓄積し易くなり、
  さらにはボールベアリングのシールド板あたりから封入グリスが黒い油状に染み出てくる。

  私自身は、スクワット社製ボールベアリングを使用する際には3ヶ月〜4ヶ月間(巻き取り回数:
  200〜300回相当)をキャスティング競技用リールのラインローラー部に組み付け、ラインへのヨリ蓄積
  がみられ始めると新しいボールベアリングに交換している。

  なお、取り外した使用済みボールベアリングは引き続き実釣用パワーサーフQDのラインローラー部に
  組み付けて、さらに数回の釣行に使用している。

  このような使用サイクルを既に2年半ほど続けているが、ボールベアリングに錆が出てラインローラー
  にトラブルを生じた経験は一度もない。

  価格と性能のバランスを考えると、ダイワ純正ボールベアリングや今回テストした他のボールベアリング
  に比べると圧倒的なお買い得感がある。
  ボールベアリングの初期性能にほんの少し不満はあるが、ラインローラーの回転に少しでも性能低下
  を感じたら即交換、そういう使い方をしたい方には是非お勧めしたいボールベアリングだ。

A京商社製 BRG002 (4個入り)
  私自身は今回のテストで京商製ボールベアリングを初めて使用したが、ラインローラー部に組み付け
  てすぐの初期性能はダイワ純正品と同等にとても滑らかである。

  今現在でちょうど3ヶ月(巻き取り回数:200回相当)ほど使ったことになるが、そろそろ巻き取ったライン
  にヨリの蓄積がみられ始めている。

  価格の割に寿命は最安価なスクワット社製と大差ない模様で、3ヶ月〜4ヶ月周期のこまめな交換が
  効果的な使用方法ではないだろうか。

  初期性能から安定した回転特性が得られる点で、価格と性能のバランスが優れたボールベアリング
  であると言えるだろう。
  究極のコストメリットよりも初期品質の安定性,確実性を求め、こまめなグリスアップや交換などの
  メンテナンスを欠かさない方にお勧めしたいボールベアリングだ。

Bタミヤ製 850ラバーシールベアリング
  タミヤ社製ボールベアリングは、ラインローラー部に組み付けてすぐの初期滑らかさがダイワ純正品
  よりも優れている印象を持った。

  新品状態からのテストを開始して1ヶ月とまだ日が浅いため耐久性については未知数であるが、
  ラジコンで散々使用したあとの中古ラバーシールベアリングをラインローラー部に組み付けての
  「意地悪テスト」も2ヶ月ほど行ったが、ラインへのヨレ蓄積はほとんどみられず合格レベルにあった。

  これらの結果から推測するに、シールド材がゴム製であることによるボールベアリング内への異物浸入
  抑制効果により、タミヤ社製ボールベアリングではダイワ純正品を含めて一般的なシールドタイプの
  ボールベアリングよりも寿命が長く安定することが期待される。

  ダイワ純正ボールベアリングに比べて1/3のコストで純正品を上回るシルキーな回転フィールと耐久性
  が得られるのであれば十分にお買い得であるが、忘れてならないのが「ノーメンテナンス」ではなく
  「要メンテナンス」であること。

  寿命が長くなるほどにこまめにゴミや水分,油分を清掃し、新鮮な潤滑油やグリスでボールベアリング
  の保護をしなければならないが、メンテナンスを怠らない自信がある方にはお勧めできる逸品である。

BM:ダイワ純正『CRBB』ボールベアリング
  私自身の経験で、ダイワ純正品のボールベアリングは6ヶ月〜8ヶ月(巻き取り回数:400〜500回相当)
  を交換目安としているが、以前一年(巻き取り回数:600〜700回相当)ほどボールベアリングを交換
  せずに使用し続けた際には、ボールベアリングのシールド板付近から黒く劣化したグリスがしみ出して、
  ラインへのヨリ蓄積が増えたことでガイドへのライン絡みでまともに投擲できなくなった苦い経験もある。
  

4. ボールベアリングの寿命は?

一般的にボールベアリングの寿命は、軸(ボールベアリング)に負荷される荷重と回転数(累積回転数と
時間当たり回転数)の関わり合いにより決まると言われている。

当然のことだが、荷重や累積回転数,時間当たり回転数の値が大きいほど、ボールベアリングの寿命は
短くなる。

キャスティング競技専用リールでは、ラインを巻き取る際のテンション=軸に負荷される荷重は比較的
小さく、巻き取り速度は人が歩く速度=4〜6km/h(1.1〜1.7m/sec)と比較的遅いために時間当たり
回転数も低い値となる。

そうなるとボールベアリングの寿命を決定する要素は累積回転数のみになるが、以下の計算条件で
ボールベアリングの累積回転数を推定できる。

@ダイワ・トーナメントサーフZ45Cのラインローラー外周長:φ10.6mm×π=33.3mm
A平均飛距離:170m と想定
B糸フケ量:飛距離の12%=20.4m と想定
C1投毎の平均ライン巻取り量=A+B=190.4m
D1投当たりラインローラー回転数:@/C=5717.6回転 (スリップロス,誤差ともにゼロと想定)
Eラインローラー累積回転数: 100万回=約175投
                    200万回=約350投
                    300万回=約525投
                   1000万回=約1,750投

つまり、ラインローラーに負荷される荷重が小さく回転速度も遅い状況ではあるが、経験的,実験的に
得られたボールベアリングの寿命から推定する累積回転数の限界値は200〜300万回転前後と考えられ、
工業製品での一般的な耐久使用限界:1,000万回転には程遠いレベルであることが判明した。

このことは、ラインローラー部のボールベアリングにおける荷重の掛かり方に原因があると私は考える。

特に、指でラインをしっかり摘んでテンションを掛けながらリールにラインを巻き取るキャスティング競技では、
ラインを指で摘んでいる箇所からラインローラーまでの距離が短い場合にラインローラーとラインとの接触部
がラインの巻取り中に頻繁にズレる傾向がある。

下の写真は、キャスティング競技でのライン巻き取り状態を再現したものであるが、ベールアームの位置が
リールフット側(ロッドに近い)ではラインローラーの後端寄りでラインが接触しているのに対し、ベールアーム
の位置がリールフットの反対側(ロッドから遠い)ではラインローラーの前端寄りでラインが接触している。

   
   ベールアームがリールフット側での           ベールアームがリールフットの反対側での
    ラインローラー上のライン接触位置            ラインローラー上のライン接触位置

本来ラインローラー部に使用されるタイプのボールベアリングでは、軸に対して垂直方向の荷重(ラジアル
荷重)のみが負荷されることを前提に作られている(ラジアル・ベアリング)のだが、上の写真のようにロータ
の回転位相によってラインローラーとラインが接触する位置がズレを起こすことでラインローラーが軸と平行
方向に移動(振動)し、この時ラジアル・ベアリングにとって天敵である軸と平行方向の荷重(スラスト荷重)
が作用するため、比較的少ない累積回転数でも寿命を迎えているのではないかと推測する。

これら、一部は推論の展開により導いた数値であるが、ダイワ・サーフリールのラインローラー用ボール
ベアリングは約300万回転=170m平均飛距離で500投強で性能寿命に達する可能性があると判明した。

結論的には、各自のリール使用状況に合わせて適宜ラジコン用ボールベアリングのメーカー,品種を選定
し定期的に交換メンテナンスすれば、ダイワ純正品のボールベアリングよりも安価にてラインローラーの
性能を高いレベルで維持することができ、巻き取ったラインへのヨリ蓄積が抑制できるものと考える。

なお、リールの使用頻度,飛距離,ライン巻き取り時テンションの強弱などが人それぞれ異なるはずである
から、ボールベアリングの劣化速度は人により必ず変動することはご承知おき下さい。

また、本レポートはダイワ精工様が販売する純正ボールベアリングの性能,価格を真っ向否定するものでは
なく、DIY感覚でより安く効率的にリールのメンテナンスを行い性能維持に努めるための情報をまとめたもの
であることも、合わせてご承知おき下さい。