'09年05月17日

Report #068  リョービ・歴代プロスカイヤー兄弟インプレッション


1. 歴代プロスカイヤー兄弟、一堂に会する!

『プロスカイヤー』といえばキャスティング競技専用のイカつい極太ロッドのイメージが強く、シリーズライン
ナップにも必ずキャスティング競技専用の35〜45号スペックのストリップロッドが存在した。

かつてリョービが釣具の製造・販売を行っていた時代のキャスティング競技会では、上位入賞者の多くが
プロスカイヤーユーザーで占められることも多く、キャスティング競技に熟練した猛者だけがプロスカイヤー
ユーザーになれる、そんな風潮もあった。

その歴史のルーツモデルはグラスファイバー製の実釣モデルであるが、キャスティング競技用カーボン
ファイバー製ロッドは1980年頃に発売された煌(きらめき)PCに始まり、EX煌(1982年),XL煌(1983年),
GFX(1984年),ダイアクロス(1987年),スーパーアモルファス(1990年),スーパーGFX(1993年),
BORON(1997年),スーパーD-HZ(2000年)と20年以上にわたって一つのブランドを築き上げた。

しかし、2002年にリョービが釣具事業から撤退後はプロスカイヤーの歴史も途絶え、7年が経過した今では
他社からより細くて軽く反発力が優れるロッドが多数リリースされ、プロスカイヤーユーザーは着実に減少
している。

私自身は、1993年にリョービに入社したのを機にプロスカイヤーユーザーとなった訳だが、スーパーGFX
35号に始まり、同40号,BORON40号プロトタイプ,BORON40号,スーパーD-HZ40号を、キャスティング
競技に愛用し続けてきた。

この間何度もスランプに陥ったりしたのだが、振り切ったときの爽快感と180mを超えたときの達成感が
たまらずに、他社製キャスティングロッドに乗り換えできずにいる。

今回は、そんな歴代プロスカイヤーを投げ比べて、材質的特徴からキャストフィーリング,飛距離対決の
結果についてレポートしてみよう。

2. 歴代プロスカイヤーたちの紹介

まずは、2007年以降の実投テストデータをもとに、『プロスカイヤー』兄弟のインプレッションを紹介しよう。

@EX煌 プロスカイヤー 400
  実投回数:3回,総投擲数:21投,上位60%飛距離平均:168.22m,フェアゾーン投擲率:97.0%

 

  同シリーズには400の他に390と420が存在するが、ブランクスの先径や元径はそれぞれ想定する競技
  種目に合わせた専用設計となっているようだ。

  この400タイプは単に390タイプのストレッチ版ではなく、ブランクスのテーパー設計や3ピースの分割長
  も専用設計になっており、#1,#2セクションよりも#3セクションが21cm長い変則継ぎとなっている。

  ブランクスの最内周にカーボン織物を巻いているため、ロッドを曲げてからの粘りが強く腰砕けになら
  ない特性があり、スピードで振り切る15号種目からタメて曲げ込む30号種目まで幅広く対応可能。

  最近の超高弾性カーボンロッドに比べると反発挙動はとても穏やかで、#2セクションが曲がってくる
  感触が明確につかめるので投げ易い。

  発売から28年、さすがにこのロッドを現役でお使いの方は、私の知る限りごく僅かとなった。
  私自身は、2003年6月に中古で1本目を購入後5種目他流試合に一時期現役使用していたが、
  その後2006年5月には元兵庫協会某クラブに在籍されたM様より同ロッドをお譲り頂きました。

  現在これらロッドは現役を退いているが、SC研究用ロッドとして年に数回実投テストに駆り出し、
  BORON系やスーパーD-HZ系などの近代プロスカイヤーとのプチ対決などを楽しんでいる。

  
        EX煌(右真横から撮影)               EX煌(右斜め前から撮影)


AGFX プロスカイヤー 40-420
  実投回数:5回,総投擲数:54投,上位60%飛距離平均:174.08m,フェアゾーン投擲率:80.0%
  (こちらのロッドは、2008年11月に神戸布引サーフ・牧元和仁会長様よりお譲り頂きました。)

 

  GFXとは、Graphite-Fiber-Excellentのアルファベット頭文字などから作られたブランクス構造名称。

  歴代プロスカイヤーシリーズでも初めて2〜5号刻みにオモリ負荷号数を細分化し、15号種目用,25号
  種目用,30号種目用でそれぞれ3.9m,4.05m,4.2mのブランクスにノーマルタイプとロングタイプ2種類
  の強化木製グリップを添付し、さまざまなユーザーニーズに応える充実したラインナップを構築した。

  同シリーズには23号〜27号のガイド付き実釣用モデルも存在するが、ストリップ仕様の30号,35号,
  40号,45号がキャスティング競技用としてラインナップされた。

  ブランクスを必要以上に厚肉化せず軽量なまま剛性を高めるために、高弾性カーボン織物を最内周と
  最外周に配置し、これらの中間層には一方向性カーボンシートをストレート方向に巻いた『GFX構造』
  を採用している。

  使用するカーボン材は弾性率:30tf〜35tf級と推定されるが、繊維密度の高いカーボン織物を使用
  した胴調子設計となっているため、40号,45号を曲げるにはかなりのパワーと技術を要する。

  スウィング途中で加速を一瞬でも緩めれば容赦なく強烈な返りの速さで反発挙動を開始する点は、
  BORON系やスーパーD-HZ系にそのDNAを受け継いでいる。
  まさに『男の剛竿』という印象ではあるが、BORON系程にジャジャ馬特性ではなくスーパーD-HZと
  同等の難易度だろうか?

  実投比較では、BORON系やスーパーD-HZ系,スーパーGFX系と比べて飛距離的には大差なく、
  十分キャスティング大会本番用ロッドとして通用するポテンシャルを、発売から25年が経過した
  今でも発揮する。

  実際に、今でもこのロッドを現役で使用されている選手もいらっしゃるようだし、私自身ももう少し
  実投を重ねた結果によっては、大会本番用ロッドまたはサブロッドへの登用も考えているところだ。

  BORON系と同じくキャスターの心を惹きつける魔力のようなものがこのロッドには宿っている気が
  するのだが、スウィング中の一瞬に起きる「曲げる」,「反発させる」,「振動減衰する」のプロセス
  挙動がBORON系やスーパーD-HZ系のそれによく似ているからなのだろうか?

 
      GFX40号(右真横から撮影)            GFX40号(右斜め前から撮影)


Bダイアクロス プロスカイヤー 35-405 (4.25m改造仕様)
  実投回数:5回,総投擲数:31投,上位60%飛距離平均:172.11m,フェアゾーン投擲率:100%

Cダイアクロス プロスカイヤー 40-405
  実投回数:3回,総投擲数:18投,上位60%飛距離平均:172.90m,フェアゾーン投擲率:88.9%
  (テストロッドは、福岡サーフ・荒田由雄様よりお借りしました。)

 

                                      

  GFX系素材構成はほぼそのままに、最外周のカーボン織物を45度の角度でバイアス・ワインド化。
  スウィング中のロッドのネジレがGFX系に比べて50%低減され、飛距離アップとコントロール性の向上
  を両立した、とのカタログコピーになっている。

  発売当時はフラッグシップモデルに3.9m,4.05m,4.2mと3種類の長さをラインナップしたGFX系を残し、
  ダイアクロス系は独創的な2ピース:3.9m仕様とオーソドックスな3ピース:405仕様をラインナップした。

  同一号数ならGFX系よりも曲げ易さが向上しているため、実釣派向け超遠投用〜キャスティング競技
  にも十分対応可能なマルチプレーヤー的位置付けだったようだ。

  実投フィーリングでは、最外周カーボン織物が45度のバイアス・ワインドとなったせいか、ストレート
  方向の突っ張り感が幾分抑えられ、GFX系よりも粘りが強く返りが緩やかな反発特性となっている。

  35号は自作ロンググリップで4.25m仕様に改造し、35号としての曲げ易さと40号クラスに匹敵する
  バットセクションの粘り&反発トルクを兼ね備えた先調子風「特別仕様」にセッティングしている。

  この仕様ではスーパーGFX系の40号クラスに匹敵する反発力を発揮し、意外と少ない力でも楽に
  飛距離を稼いでくれる点が大変気に入っている。

  私自身、このロッドをキャスティング大会に実戦投入する機会は未だ持っていないが、そのポテン
  シャルはBORON系>スーパーD-HZ系に次ぐレベルにあり、初代GFX系やスーパーGFX系の40号
  クラスと同等の飛距離をあっさりと叩き出す。

  一方40号はノーマル仕様で実投テストを行ったが、こちらは胴調子でシンカー荷重がロッドのバット
  セクションに一気に乗ってくるため、体感的にはかなり硬く感じられて振り応えがある。

  ノーマル仕様では25号オモリを使用するST種目にはやや硬過ぎる印象で、1種目や2種目などの
  30号オモリをスウィング投法で投げる種目に最適だろう。

  35号,40号ともに、返りの速さや反発力の強さよりも粘り強さと曲げ易さが強調されたロッドなので、
  『男の剛竿』:GFX系に比べると随分大人しい印象だが、飛ばす能力はGFX譲りでかなりハイレベル。

 
    ダイアクロス35号(右真横から撮影)       ダイアクロス35号(右斜め前から撮影)

 
    ダイアクロス40号(右真横から撮影)       ダイアクロス40号(右斜め前から撮影)


Dスーパーアモルファス プロターゲット プロスカイヤー 35-400 (4.25m改造仕様)
  実投回数:3回,総投擲数:25投,上位60%飛距離平均:165.22m,フェアゾーン投擲率:70.7%

 

  歴代プロスカイヤーで唯一、カーボン織物を使わずに製竿したのがこのシリーズ。

  スーパーアモルファス系では、ブランクス最内周にフープ・カーボンシートを、第2層にストレート・
  カーボンシートを巻いた上に、アモルファス(非晶質金属)リボンとカーボンヤーンを編み合わせた複合
  テープをらせん状(#1セクション)またはクロス状(#2,#3セクション)に巻き付け、さらに最外周に
  ストレート・カーボンシートを巻いて製竿している。

          
             #2セクションのアモルファス複合テープを露出させた状態
             (テープ幅中央部の金属光沢部がアモルファスリボン)

  つまり、従来型プロスカイヤーではカーボン織物でブランクスを補強していたのを、アモルファスリボンと
  カーボンヤーンの複合テープで補強した、ということになる。

  カーボン織物補強では織物に含浸されたエポキシ・レジンによってブランクスの内層と中間層,外層
  それぞれの粘結が強固になされていたが、スーパーアモルファス系では補強材のアモルファスリボンと
  カーボンヤーンの複合テープを巻き付けた中間層で「層間剥離」を生じ易い模様で、ロッドの折損事故
  がよく有ったと聞く。

  実際、私自身も同シリーズ30号を振り切った際にバラバラに空中分解させた経験があるが、折れた
  ロッドの破面においてアモルファスリボンが巻かれた中間層に隙間が生じて(層間剥離の外観特徴)
  ささくれたように破断していた。

  ロッドの特性的には、GFX系やダイアクロス系の同一号数に比べて全体的に軟らかく、リールシート
  下から穂先まで全域をムチのようにしならせて飛距離を稼ぐ設計のようだ。

  ただし、そこまでロッドを追い込むと当然折損のリスクは高くなるため、ロンググリップ装着によりバット
  セクションの荷重を受け止めるキャパシティーを増やすことで体感的な剛性(=安心感)を得ている。

  ダイアクロス系よりもさらに曲げ易く反発挙動はごく穏やかな印象を受けるのだが、その分反発力に
  物足りなさも感じる。

  結果的に飛距離はあまり優れた値ではなく、しかも比較的ロッドの反発スピードが遅いために
  リリースタイミングが計り難くコートセンターを捉える確率が低くなる欠点がある。

  私自身は過去に同シリーズの27号新品,30号中古と、この35号中古を所有してきたが、27号新品
  ではかなり強い反発力を発揮する印象を持っていたことから、現在テスト中の35号ではブランクスの
  ヘタリ症状により飛距離がダイアクロス35号より大幅に劣るものとなったのではないかと推測する。

 
    アモルファス35号(右真横から撮影)       アモルファス35号(右斜め前から撮影)


EスーパーGFX プロスカイヤー TYPE-H 40-420
  実投回数:5回,総投擲数:40投,上位60%飛距離平均:174.13m,フェアゾーン投擲率:85.1%

 

  ネーミングに『GFX』が復活しているが、ブランクスの積層パターンはスーパーアモルファス系からの進化版
  に相当する。

  ブランクス最内周にフープ・カーボンシートを、第2層にストレート・カーボンシートを巻いた上に、初代GFX系
  のようにカーボン織物で締め上げている。

  カーボン織物は初代GFX系よりも高弾性化(推定弾性率:35〜40tf)され、さらに横方向の繊維量を減量
  したことで、ブランクスの張りの強さと曲げ易さのバランスが向上した。

  印象的には初代GFX系の突っ張り感と反発トルクに、ダイアクロス系の曲げ易さと粘りをバランス良く
  合わせ持った特徴を継承している。

  同一号数で比較すると初代GFX系よりやや軟調に設計されているので、ダイアクロス系と同等かそれ
  以上に曲げ易く、反発挙動は穏やかでありながらトルクフルに仕上げられている。

  スーパーアモルファス系では曲げ易くなった代わりに反発力に物足りなさを感じたが、スーパーGFX系
  では高弾性カーボン織物で最外層を締め上げたブランクス構造により、初代GFX系と同様強烈な反発
  トルクを発生する。

  曲げ易さ,反発挙動の穏やかさなど遠投性能と扱い易さのバランスが優れるこのシリーズが、歴代
  プロスカイヤーとしては最も完成度が高いと言えるだろう。

  とはいっても、'96年購入当時はこのロッドが曲がったところから投擲方向正面までパワーが持続せず、
  3月のデビュー戦では抜け弾を連発して3F失格の苦い経験もある。

  その後ミッチリ練習をして、4月のジャパンオープンキャスティング大会では4位入賞、さらに'97年協会
  対抗戦では競技前半スーパーGFX,後半BORONのコンビネーションで5位入賞と、徐々に実力アップ
  していく実感が得られたロッドとしてお気に入りの一本になっている。

  最近では年に数回だけ、気分転換にこのロッドを振っているが、現役時代以上に飛距離は安定して
  おり、フェアゾーンを捉える確率も高水準を維持している。

  キャスティングロッドとしての完成度,ポテンシャルが高く、飛距離も十分満足な値を連発するのだが、
  BORON系やスーパーD-HZ系のようにキャスターの心を引き寄せる魔力のようなものが不足している
  のが大変惜しいロッドである。

 
   スーパーGFX40号(右真横から撮影)        スーパーGFX40号(右斜め前から撮影)


FBORON プロスカイヤー 競技スペシャル 40-420
  実投回数:77回,総投擲数:924投,上位60%飛距離平均:169.09m,フェアゾーン投擲率:81.3%

 

  スーパーGFXの発売直後の1993年9月に、BORONプロスカイヤーの開発はスタートした。
  そして3年半のテスト期間の後、満を持して発売された『BORONプロスカイヤー競技スペシャル』は、
  全てにおいて「究極」を目指したキャスティングロッドである。

  開発期間中には、ブランクス積層のどこにどのようにしてボロン材を巻き付けるか、また分割セクション
  毎のボロン含有率など、設計面,技術面で様々な検討,試作,評価が行われた。

  最終的にブランクスの主要積層パターンは初代GFX方式の進化版が採用され、内層側から
  カーボン織物/ストレート・カーボンシート/ボロンシート/ストレート・カーボンシート/カーボン織物の、
  実に5層構造となった。

  さらに、ブランクス表面の塗装色についても究極は求められ、クリヤー塗装だけのプロトタイプでテスト
  は開始されたが、ブルー系,グリーン系,レッド系のモノトーン色や2トーン色など様々な色試作を経て、
  最終的には下地/発色1/発色2/クリアーの4層コートでまさに宝石のような輝きを放つルビーレッド色
  に塗装されることになった。

  また、従来のプロスカイヤーでは強化木製のタマゴ型グリップが伝統であったが、BORON系ではより
  グリップ力が増す形状,材質が検討され、現在では他社製キャスティングロッドが採用しているEVA材
  も候補に挙げられたのだが、「究極のグリップ」には総削り出し製のA2017-T4材が採用された。

  こうして、赤く輝くBORONプロスカイヤーが誕生したが、生産数は40号,45号合わせて限定200本。
  全て受注生産の完全手作り品なので、カタログモデルではなく限定版として1997年3月に発売された。
  
  このロッドも、愛用して早いものでまる12年が過ぎた。
  このロッドでは、最初にガイドを付けて翌日の記録会で自身初の3投平均190mオーバーを記録。
  その自己記録は2007年まで更新されることはなかったし、もちろん新たな3投平均自己記録:191.48m
  も、競技の後半3投はこのロッドで投げたもの。

  そして、念願だった全日本大会初優勝と、そこからの全日本3連勝もこのロッドで成し遂げたもの。
  プロトタイプでの戦績も合わせると、優勝:5回,準優勝:2回,3位:4回と、数々の全日本大会上位入賞
  を果たしているだけに、私にとっては特別中の特別な存在。

  振り幅が極端に狭いST種目にこのロッドを使うことは無謀ともいえる。
  当然、練習では飛ばせる飛距離が大会本番でも出せる保証はないし、少しでも体調に不安があれば
  飛距離は安定せず、急激に10m以上もダウンする。

  しかし、私自身このロッドの開発期間の一部で実投テストに参加する機会を頂いただけに、このロッド
  に対する想いは人一倍強いものがある。

  だからこそ振り続けたい,使いこなしたい、という想いばかりが強くて、実際のところはST種目ではこの
  ロッドのポテンシャルを引き出すには限界も感じているし、多くの先輩選手方からも
  「もう一クラス軟らかいロッドの方が飛距離が伸びるはず。」とのアドバイスもよく頂く。

  それでもこのロッドで投げたい,飛ばしたいと思うのは、このロッドが持つ魔力なのかも知れない。
  かれこれキャスティング競技を始めて20年になるが、これほどまでに振る者の心を揺さぶるロッドには、
  BORON以外には出会っていないのが現実だ。

  曲げ易さ,反発挙動の穏やかさは最悪の評価になるかも知れないが、私のキャスティング人生の中
  でも最高のお気に入りロッドがこのBORONプロスカイヤー競技スペシャルなのだ。

 
     BORON40号(右真横から撮影)           BORON40号(右斜め前から撮影)


GスーパーD-HZ プロスカイヤー 40-425
  実投回数:11回,総投擲数:97投,上位60%飛距離平均:171.29m,フェアゾーン投擲率:81.6%

 

  BORON系のポテンシャルを発揮するカーボンファイバー製ロッドをカタログモデルでリリースすることを
  前提に、スーパーD-HZ(ダイアクロス-ヘリカルZ)は開発された。

  そのブランクス積層パターンはスーパーGFX系の進化版に相当し、中間層のストレート・カーボンシート
  が高弾性・厚肉化されたことでロッドの張りと反発特性が向上。
  さらにブランクス最外周には、継ぎ目のない高密度・長繊維カーボン織物テープがブランクス軸線に
  対しらせん状に密巻きされるので、ブランクスのツブレ強度が大幅に高められている。

  「ヘリカルZ」もまた、「GFX」のようにブランクス構造名称であるが、ブランクスの最外周にカーボン織物
  がらせん状=「Helical」に巻かれた形態を透視すれば「Z」の文字形状にならう、という意味のブランクス
  構造名称が1985年発売の実釣用投げ竿:「ヘリカルZ・プロスカイヤー」シリーズで既に採用されていた。

  さらに、当シリーズではらせん状に巻き付けるカーボン織物がテープ幅ピッチで密巻きされているため、
  ブランクス最外層の繊維角度がロッドの軸線に対して数度〜数十度の角度に整列した「ダイアクロス」
  状になるとのことで、『D-HZ』(ダイアクロス-ヘリカルZ)とネーミングされた。

  ブランクス径はスーパーGFX系に比べて2mm近く細身化されたが、キャスティング時に大きくネジれる
  #1セクションのみカーボン織物テープの巻き付けを左右両方向に2層巻きとしているため、ロッド先径
  は各オモリ負荷号数の標準的寸法よりも約0.3〜0.4mm程度太くなっている。

  BORON系で好評を得た塗装品質とグリップ形状も受け継がれ、チタン系顔料により見る角度によって
  色調が金色からグリーン系,ブラウン系に変化するマジョーラカラー;「オーロラシャイン塗装」を採用。
  グリップは、握り心地はそのままに材質と熱処理,加工切削面の仕上げレベルを変更してコストダウン
  を行っている。

  さらに、ずっしりと重量感があるBORON系に比べてスーパーD-HZ系は200g以上も軽量化されており、
  BORON系なら体調コンディションによっては飛距離ダウンが避けられない状況でも、スーパーD-HZ系
  なら少々誤魔化しが効く部分がある。

  このようにしてスーパーD-HZ系では、ダイアクロス系やスーパーGFX系が「曲げ易さ」を向上してきた
  のとは異なる方向性でキャスティング性能を高めており、細身軽量なカーボンファイバー100%製
  ブランクスでBORON系に匹敵する高反発特性を得ている。

  なお、スーパーD-HZ系にも若干の欠点はあり、スウィング中にロッドがネジレてしまうと飛距離が
  ダウンする傾向がある。

  ブランクスの構造特性でネジレには断然強いはずなのだが、スウィング中にロッドがネジレてしまうと、
  反発エネルギーがネジレの回復に消耗してシンカーの発射には寄与しなくなるのだろうか?
 
  私自身の癖で投擲時に力みが入ることがあるのだが、この場合スウィングプレーンが湾曲してしまい、
  その結果ロッドの特に#1セクションがネジレて飛距離が大幅にダウンする。

  そこで、2004年以降このロッドではガイドセッティングをローライダー系にしており、万が一スウィング
  プレーンが湾曲してしまっても、ロッドが極端にネジられることがないようセッティングすることで、
  飛距離の安定化とフェアゾーン投擲率の向上効果を得ている。

  ローライダー系ガイドセッティングでは、スウィング動作の比較的早い段階からロッドの芯にシンカー
  荷重が乗ってくる感触が得られるために、向かい風コンディションでは力強い弾道で好飛距離を叩き
  出せる反面、雨天時や追い風コンディションではハイスピンダ-系ガイドセッティングの場合よりライン
  通過抵抗が大きいせいか、飛距離が伸び悩むことが多い。

  2004年〜2005年のキャスティング大会では、ローライダー系ガイドセッティングのスーパーD-HZを
  メインロッドに使用していたのだが、華々しい飛距離や成績が残せていないのが少し悔しい。

 
   スーパーD-HZ40号(右真横から撮影)       スーパーD-HZ40号(右斜め前から撮影)

                          

3. 直接対決!の結果

2009年3月のある日、歴代プロスカイヤーを集結しての直接対決!を行った。
リールは全て「プロスカイヤー7スーパーノーズ4570」を使用した。

当日のコンディションは、終日追い風が1〜2m/sec程度吹く絶好のキャスティング日和。
時々風が正反転して向かい風となるのは練習場の地形による特徴であるが、この日は幸いにも
向かい風コンディションとなるのは1時間に数分〜10分程度とごく短時間であり、各ロッドでの上位60%
平均を算出する際に、自動的に向かい風でのデータが脱落するような状態での対決!となった。

結果は以下の通り。

順位 ロッド 1投目 2投目 3投目 4投目 5投目 3投合計 3投平均 最長
8 EX煌 プロスカイヤー
400
163.11 168.03 165.39 172.52 164.20 505.95 168.65 172.52
3 GFX プロスカイヤー
40-420(4.30m仕様)
176.72 183.18 F 179.14 179.24 541.57 180.52 183.18
4 ダイアクロス プロスカイヤー
35-405(4.25m仕様)
170.05 163.79 182.02 174.81 176.67 533.51 177.84 182.02
7 ダイアクロス プロスカイヤー
405-405
175.32 166.71 167.70 168.07 176.00 519.38 173.13 176.00
6 スーパーアモルファス PT
プロスカイヤー 35-400(4.25m仕様)
182.51 174.16 170.34 165.64 163.84 527.02 175.67 182.51
5 スーパーGFX プロスカイヤー
TYPE-H 40-420
160.13 173.20 F 181.95 178.01 533.16 177.72 181.95
2 BORON プロスカイヤー
競技スペシャル 40-420
173.30 169.07 185.65 179.04 180.55 545.23 181.74 185.65
1 スーパーD-HZ プロスカイヤー
40-425
179.01 F 186.79 185.17 178.15 550.98 183.66 186.79

高反発なBORON系,スーパーD-HZ系が優位であることはある程度予想が付いていたが、初代GFX対
スーパーGFXでは意外にも旧式の初代GFXがBORON系に迫る超遠投ポテンシャルを発揮し、3m近くの
差を付けて逃げ切った。

しかも、スーパーGFXはダイアクロス35号にも3投平均,最長ともに僅差で負けて、5位陥落・・・
ちょっと期待外れの結果となったが、初代GFX系とダイアクロス35号のポテンシャルの高さに改めて気付
かされた。

一方、スーパーアモルファスについては反発力が鈍い印象を持っていたので、当初の予想では3投平均:
170〜173mあたりに落ち着くのではないか?と睨んでいたのだが、第1投目に追い風に乗って182.51m
の好記録を出し、3投平均でも175.67mと予想以上の活躍を見せた。

ダイアクロス40号は、今回の比較テストに特別にお借りしたものだけに、リールシートポジションやガイド
セッティングが自前ロッドと異なる上に扱いもやや慎重になったことで、本来このロッドが持つポテンシャル
を十分に引き出せなかったようだ。

EX煌は、さすがに最古のプロスカイヤーとあって、既に反発特性は性能劣化が進行しているようだ。
ロッドを曲げて振り切っているにも関わらず、飛距離は170m付近がやっと…
このロッドをBORON系やスーパーD-HZ系と同じ土俵で比べるのはもはや酷だろう。

今回の直接対決!を総合すると、やはり初代GFXの持つポテンシャルがキラリと光っている。
また、過去のキャスティング大会にて実戦投入してきたものの、イマイチ納得できる結果が出せて
いなかったスーパーD-HZであるが、このように比較してみると意外とあっさりさりげなくトップスコアを
出してみせてくれた。

BORONへのこだわりは精神論的には大切にしたい部分もあるが、キャスティング大会で納得の
いく飛距離を揃えるためには考え方の切り替えも必要だろう。
スーパーD-HZと初代GFXを大会本番用ロッドに起用することも、案外良い結果に繋がりそうな予感
すらするのだが…

そのあたりの考察は、また機会を改めてじっくり行うことにしようと思う。