'12年09月14日

Report #087  昭和60年代の銘竿対決! 
     シマノ・Hi-POWER X PROSELECT vs. リョービ・GFX PROSKYER vs. ダイコー・WANT投



1. 昭和60年代の銘竿といえばこの3本!

今から25年ほど前、昭和60年代(1985〜1988年)頃のスポーツキャスティング界には、
現代のようにたくさんの種類のキャスティングロッド,サーフロッドは存在せず、
ごく限られたメーカー製の限られたシリーズの中から、各自の体格や種目に応じて
ロッドチョイスをする以外に選択肢がなかった。

特に、スウィングスペースに制限のあるST種目では、錘負荷35号〜40号で4.05〜4.20m
のロッドが主流であり、選択肢はシマノ・ハイパワーXプロセレクト405AX,同420XXと、
リョービ・GFXプロスカイヤー35号〜40号-405〜420がロッドチョイスの主流であった。

そんな中、彗星のごとく登場したダイコー・WANT投シリーズはラインナップこそ前二者ほど
充実したものではなかったが、4万円代で本格的キャスティングロッド:TR-X400,同430
が発売され、一躍キャスティング用ロッドチョイスの選択肢に加わった。

これら『昭和60年代の銘竿』とも呼べるであろう、シマノ・ハイパワーXプロセレクト,
リョービ・GFXプロスカイヤー,ダイコー・WANT投の各シリーズがであるが、後に時代が
平成になって以降も後継ロッドを開発し続けたのは、シマノとリョービそしてダイワの3社
となり、ダイコーからは残念ながらWANT投シリーズに次ぐキャスティングロッドは発売
されることはなかった。

これらの銘竿の発売当時、私自身ははまだ中学生〜高校生だったので実際に手に
触れたのは釣り用品見本市会場だけなのだが、1990年に本格的にキャスティング競技を
始めてから1年半ほどはシマノ・ハイパワーXプロセレクト405AXを使用し、その後
リョービ・プロスカイヤーシリーズを数々振ってきた。
しかし、最近までシマノ・ハイパワーXプロセレクト420XXとダイコー・WANT投シリーズだけ
は振った経験がなく、『一度振ってみたいロッド』として長年手にする機会を待ちわびていた。

そして最近になり、昭和60年代の銘竿:シマノ・ハイパワーXプロセレクト420XXと
リョービ・GFXプロスカイヤー40号-420,ダイコー・WANT投TR-X430を投げ比べる機会を
得ることができた。

今回は、その『昭和60年代の銘竿』のST種目投げ比べ対決をレポートしてみよう。

  
シマノ・ハイパワーXプロセレクト420XX      リョービ・GFXプロスカイヤー40号-420      ダイコー・ウォント投TR-X430
  

2. スペック比較

比較ロッドのスペック一覧およびブランクス径実測結果を表1に示す。
また、各ロッドのブランクス径実測データを図1〜3に示す。
表1 比較ロッドのスペック一覧  
  シマノ
ハイパワーXプロセレクト
420XX
リョービ
GFXプロスカイヤー
40号-420
ダイコー
ウォント投
TR-X430
全長 (m) 4.20 4.30 4.30
ストリップ仕様
カタログ自重(g)
530 505 510
ハイスピンダー
6点ガイド仕様
実測自重(g)
#1セクション 90 92 85
#2セクション 169 186 158
#3セクション 341 409 359
合 計 600 687 602
実測ブランクス径
(mm)
#1先径 4.30 4.45 4.75
#1込み部径 11.85 14.40 12.45
#2玉口部径 14.15 16.65 14.50
#2込み部径 19.40 22.95 20.70
#3玉口部径 23.10 25.80 22.95
#3元径 25.55(25.30) 26.75(26.50) 24.30(24.00)
ブランクステーパー
(度)
#1セクション 0.174 0.234 0.173
#2セクション 0.122 0.142 0.138
#3セクション 0.047 0.020 0.068
ガイドセッティング トップガイド T-SF-16F : 0mm SF-16F : 0mm SF-16F : 0mm
#2ガイド SVSG-12 : 199mm SVSG-12 : 204mm SVSG-12 : 200mm
#3ガイド SVSG-16 : 441mm SVSG-16 : 443mm SVSG-16 : 443mm
#4ガイド SVSG-20 : 755mm SVSG-20 : 763mm SVSG-20 : 772mm
#5ガイド HVSG-25M : 1182mm HVSG-25M : 1195mm HVSG-25M : 1195mm
玉口#2 1,393mm 1,394mm 1,378mm
バットガイド T-HVSG-30H : 1893mm HVSG-30H : 1870mm HVSG-30H : 1893mm
玉口#3 2,746mm 2,766mm 2,793mm
リールシート FS-7 : 3,300mm LS-7 : 3,343mm FS-7 : 3,399mm
グリップエンド 木製(標準) : 4,236mm 木製(自作) : 4,314mm 木製(標準) : 4,331mm
標準小売価格 \83,000 \83,800 ¥44,000
発売時期 1984年 1984年 1985年
スペック表から読み取れるのは、当時のキャスティングロッドは相対的に穂先から竿尻まで
が全域で太目の設計であり、現代で主流となっている先径:3.2〜3.8mm,元径:21〜23mm
のキャスティングロッドよりも一回り〜二回りは太く仕上がっている。

一方で、ハイスピンダー6点ガイドを装着した状態での自重は600g〜682gとなっているが、
近代的な35〜40号-4.2m級キャスティングロッドでも同一ガイドセッティングであれば550〜
580gが標準的な値であり、さらにロッドバランスを改善するためのバランサーも加えると
ほぼ同等の自重値であることが分かる。

カタログスペックには掲載されないが、カーボン繊維の積層パターンや表面の塗装仕上げは
以下の形式と推測される。

@シマノ・ハイパワーXプロセレクト420XX
  ・最内周:第1層は低弾性カーボンテープをらせん状に密巻きしたフープ構造。
  ・第2層には25tf級中弾性カーボンシートをロッド軸線方向に敷き詰めたストレート構造。
  ・第3層は低弾性カーボンシートのフープ構造。
   この第2層と第3層の積層は複数回積み重ねている可能性あり。
  ・第4層に30〜35tf級高弾性カーボンシートを巻いたストレート構造。
  ・第5層に2本の低弾性カーボンテープをらせん状に巻き付けて補強仕上げ。

  第5層のカーボンテープ補強がX型の外観となることから『ハイパワーX』とのネーミング
  であるが、この補強用カーボンテープは幅,厚みとも薄いものでありブランクス強度や
  反発力の向上にはほとんど寄与していないと推測される。
  中弾性カーボンの粘り腰がロッドアクションの中核となっており、外装の高弾性カーボン
  素材が反発力にパンチを与えている。
  また、カーボンテープとカーボンシートを組み合わせて積層構造を形成しているので、
  低レジン軽量ブランクスとなっている。
  
  ブランクス表面の塗装は控え目で、淡く青みが掛ったシルバーの塗装後にX状の
  カーボンテープが黒く浮き上がる形態に研磨を施した状態でクリア塗装を行っている。
  塗装の膜厚は薄くブランクス表面の研磨量はごく僅かなので、ロッドアクションへの影響
  は皆無に等しいと推測される。

    
  シマノ・ハイパワーXプロセレクト420XX:ブランクス外装          同竿:最内周のカーボンテープ・フープ構造


Aリョービ・GFXプロスカイヤー40号-420
  ・最内周:第1層は35tf級高弾性カーボン&25tf級中弾性カーボンの複合織物。
  ・第2層は低弾性カーボンシートのフープ構造。
  ・第3層は30〜35tf級高弾性カーボンシートのストレート構造。
  ・第4層は低弾性カーボンシートのフープ構造。
  ・第5層は35tf級高弾性カーボン&25tf級中弾性カーボンの複合織物。

  最内周と最外周に巻かれたカーボン織物は、1束3,000本の35tf級高弾性カーボンと
  1束1,000本の25tf級カーボンをファブリック化したもので、ブランクスの軸線方向の張りと
  径方向のつぶれ強度を最大限に高める効果がある。
  織物ではカーボン繊維をつなぎとめるレジンの量が多くなるため、カーボンシートのみで
  製竿されたロッドより重くなるのが欠点だが、他の積層構造では得られない剛性感と
  耐久性を発揮する。
  35tf級高弾性カーボンの含有率が85%,残り15%も25tf級カーボン材で、ガラス繊維を全く
  使わずカーボン織物主体で製竿されたこのロッドは、硬くて張りがあり曲げ難いが反発力
  も最強レベルである。

  カーボン素地表面はわずかに研磨を施しており凹凸のない比較的滑らかな表面に仕上げ
  られている。
  塗装は局所的な飾り模様以外には基本的にクリア塗装だけとなっているが、クリア塗装の
  膜厚,硬さはシマノ・ハイパワーXプロセレクト,ダイコー・ウォント投シリーズに比べると
  数倍の膜厚で強固に仕上げられている。

    
  リョービ・GFXプロスカイヤー40号-420:ブランクス外装          同竿:最内周のカーボン織物


Bダイコー・ウォント投TR-X430
  ・最内周:第1層はガラス繊維を貼り合わせた低弾性カーボンシートのフープ構造。
  ・第2層には25tf級中弾性カーボンシートをロッド軸線方向に敷き詰めたストレート構造。
  ・第3層は低弾性カーボンシートのフープ構造。
   この第2層と第3層の積層は複数回積み重ねている可能性あり。
  ・最外周:第4層に25tf級中弾性カーボンシートを巻いたストレート構造。

  最内周にガラス繊維を使用することで、安価にロッドの耐折れ性が向上可能である。
  このロッドの特徴である、押し込めば押し込むほど曲がってくるアクションは、このガラス
  繊維によってもたらされる性質ではないだろうか。
  カーボン材も30〜35tf級の高弾性材を使わずに25tf級中弾性材だけを用いているので、
  突っ張り過ぎずしなやかにシンカー荷重を受け止めてトルクフルに打ち返す反発力を
  安価なブランクスでも発揮している。

  ブランクス表面は研磨を省いており、ごく薄膜のクリア塗装を施しただけのため独特の
  凹凸模様に仕上げられている。
  最外周のカーボン繊維が明確に目視できるのは昭和60年代のロッドだけのデザイン
  特性である。
  リョービ・GFXプロスカイヤーのカーボン織物の模様は筋肉質で強靭,強固なロッド
  特性を連想させるが、ダイコー・ウォント投のカーボンシート模様では柔軟で曲げ易く
  軽快なロッドアクションを連想させる。
  
    
  ダイコー・ウォント投TR-X430:ブランクス外装                同竿:最内周のガラス繊維
  

3. キャストフィーリングの比較

表2にスウィング動作の主要過程
…シンカーの離陸段階,ロッドが最も曲がった段階,ラインリリースの直前段階…
でのキャストフィーリング解説を示す。

表2 スウィング動作の主要過程でのキャストフィーリング解説
No. 過程 シマノ
ハイパワーXプロセレクト
420XX
リョービ
GFXプロスカイヤー
40号-420
ダイコー
ウォント投
TR-X430
1 シンカーが
離陸した直後
の段階
竿先の剛性感が程良いのでシンカーの離陸タイミングが安定している。
かなり早い段階でシンカー荷重がロッドの#2セクションに乗ってくるが、オートマチック感覚でキャスティングが楽しめる。
25号シンカーが離陸する瞬間を検知するには竿先がやや硬い印象。
意識的にややシャクリ気味にスウィング動作を開始しないと竿先がシンカーを弾いてしまい、#2セクションに荷重を乗せる前に抜け弾を打ってしまうことがある。
竿先が3機種中最も軟らかく、竿先からシンカーまでのタラシを短くしてスウィング動作の開始とともにシンカーを離陸させる。
この段階でシンカー荷重をロッドの#2セクションに乗せ、フィニッシュまで加速を持続させる必要がある。
2 ロッドにシンカー
の荷重が最大
付加した段階
シンカー荷重がロッドの#3セクションに乗ってくると引手も使って最後の一押しを加える。
ロッドの#2セクションは硬過ぎず軟らかくもないので、ロッドを曲げた状態でフィニッシュまで維持し易いのが特徴。
ロッドの#2セクションが3機種中最も強く硬いため、シンカーが離陸すると全力で振り込まないとロッドが曲がってこない。
ロッドの#2,#3セクションの反発力が強く、曲がった感触を得た直後にはシンカーを弾いてしまう。
3機種中最も軟らかい設計のため、押せば押すほどロッドの#3セクションまで曲がってくるのが特徴。
スウィング動作開始からフィニッシュまでひたすら加速し続ける必要があるので、振り切るのに意外と体力を要する。
3 ラインリリース
の直前段階
ロッドが最も大きく曲がった状態から反発挙動を開始するまで、ほんの一瞬待つだけで最適なリリースタイミングを迎える。
反発挙動はトルクフルでありながら素直なので、ミスなく安定した投擲がオートマ感覚でできる。
ロッドが最も大きく曲がった状態からの反発挙動はある面暴力的といえるだろう。
シンカー離陸段階,ロッドの#2セクションへの荷重乗せ段階,最後の押しこみとすべてがスムーズにつながった時には、圧倒的な飛距離を発生する。
右腕がほぼ伸びた状態まで振ってもシンカーはかなり後方に残っているので、最適弾道へリリースするためには前方水平付近まで押し込むイメージでロッドを振り向く。
軟調ロッドながら反発力は他のロッドと互角に強烈である。

4. 飛距離対決

昭和の銘竿3機種のST種目実投直接対決結果を表3に示す。
なお、比較テストには昭和60年代〜平成初期のキャスティング競技で多くの選手が使用
していた投げ専用リールを用いて、極力当時の競技コンディションを再現した。

表3 昭和の銘竿ST種目実投テストによる飛距離対決結果


★比較テスト結果:第1位・・・ダイコー・ウォント投TR-X430
結果、最も安定して好飛距離を揃えたのはダイコー・ウォント投TR-X430であった。
押し込めば押し込むほどに曲がってくる柔軟なブランクスはリリースタイミングが不安定に
なりがちであったが、竿先からシンカーまでのタラシ長さを他のロッドよりも200〜250mm
短く変更することでリリースタイミングが安定化し、飛距離でも他機種を上回ることができた。

飛距離を伸ばす要素としてカーボン素材の弾性率や含有率,ロッドの硬さが重要視される
風潮があるが、それに逆らい比較的低い弾性率のカーボン材にガラス繊維を併用して
柔軟でありながら高反発ロッドを低価格で実現したダイコー・ウォント投シリーズ。
後継ロッドが開発されなかったのが大変惜しい。

★比較テスト結果:第2位・・・シマノ・ハイパワーXプロセレクト420XX
シマノ・ハイパワーXプロセレクト420XXは、『曲げる』工程と『弾く』工程が素直に順序よく
利き腕に感じられるので、オートマ感覚でキャスティングが楽しめる。
比較テストの結果を客観的に分析すると『第2位の成績』という結論になるのだが、
荷重の入力に対して素直に曲がる#2セクションとその荷重をしっかり受け止める
#3セクションの絶妙なバランスは他機種にはない特徴であり、3機種中投げることが最も
楽しめたのは紛れもなくこのロッドである。

このロッドアクションは後に開発されたファインセラミック・シリーズやスピンパワー・シリーズ
の『XX』に受け継がれており、投げ易さと飛距離の安定感で特にST種目で絶大な人気を
獲得している。

★比較テスト結果:第3位・・・リョービ・GFXプロスカイヤー40号-420
リョービ・GFXプロスカイヤー40号-420はまさに『男の剛竿』で、硬くて曲げ難く振り切るには
相当な体力と技術を要する。
このクラスのロッドでは、そのポテンシャルを出し切るには少々の練習投擲だけでは不十分
であり、数か月間はみっちり投げ込みをしないと安定した飛距離を得ることは不可能である。

そのような事情もあり、比較テストでは最下位の飛距離データしか得られなかったのだが、
このロッドは『投げ難い』が故に『無性に投げたくなる』という面で投げる楽しみがある。
楽に投げることを好まず、苦難を乗り越えての飛距離アップに一喜一憂したい方には
この上ないロッドであろう。

5. むすび

昭和の銘竿3機種のST種目実投直接対決から、以下の知見を得ることができた。

@27〜28年前のオールドロッドでもほとんど性能劣化を感じずフルスウィングできる。
Aブランクス設計理論は当時から各社各様で独自性の高いキャスティングロッドが存在した。
B近代キャスティングロッドに比べると圧倒的に投げ易い。
C実は近代キャスティングロッドとも飛距離比較を行ったのだが、
 オールドロッドが勝利する場面も多く見られる。

元々オールドロッドが大好きだが、ますますオールドロッドの素晴らしさに感銘を受けた次第。

またの機会にはオールドロッドvs.近代ロッドの対決レポートを書いてみようと思います。