'22年09月20日

Report #099 中国製ドラグ付き投げ専用リール GX8000 インプレッション

1. 激安ドラグ付き投げ専用リールを購入してみました

長引くコロナウイルス蔓延の影響か、日本の釣具メーカーからの
商品供給は途絶えがちで、新商品の発売もごく限定的な状態が
続いているようです。

そんな状況下で、昨年購入した振り出し投げ竿:
シマノ・21プロセレクトに組み合わせる投げ専用リールには
シマノ・スーパーエアロEVや同・チタノスエアロ GT7000もしくは
ダイワ・パワーサーフ QD4000を使用していますが、いずれも
老朽化の激しい旧式リールです。

新しいドラグ付き投げ専用リールを購入したいとは思うものの、
シマノ・パワーエアロ スピンパワーや同・プロサーフシリーズは
モデルチェンジが近いようで、在庫切れの状態が続いており
入手不可能・・・

オークションサイトでは、中古品が新品価格に迫る勢いで取引
されているようです。

そんな状況がまだまだこれからも続くのだろうなと思いつつ、
インターネットで投げ専用リールをリサーチしていると・・・

ロングストロークで平行巻きシステムを搭載した投げ専用リール
ですが、メーカーやモデル名が明記されず糸巻き量に応じた
型番のみ表示した中国製スピニングリールの通販情報を発見。

日本メーカー品最新モデルを真似したデザインと、アルミニウム製
のボディー,ハンドルアーム,ドラグ付きスプールと、ステンレス
製メインシャフト,真鍮製ピニオンギヤ,ボールベアリング内蔵
ラインローラーを採用しています。

さらに、ボディー&ローターは同一形状ながら、カラーリングや
スプールのホール加工,ハンドルノブのデザインが異なる
兄弟機種?が複数の通販ショップから、6千円台〜9千円台で
販売されています。

日本メーカーが得意とするマグネシウム合金製やカーボン樹脂製
のボディー&ローターはもちろん、超々ジュラルミン製ドライブ
ギヤ&ピニオンギヤは搭載しませんが、アルミダイカスト製
ボディー&樹脂製ローターにステンレス製メインシャフト&
ウォームシャフトと亜鉛合金ダイカスト製ドライブギヤ&
真鍮マシンカット製ピニオンギヤは搭載しているようです。

つまり、昭和末期・コップ型ロングストロークリールが登場した
頃の投げ専用リールのポテンシャルは有しているようですから、
この投げ専用リールでしばらく遊んでみようかと思い、1台購入
してみました。



中国からの発送のようで、購入手続きから商品が届くまで約2週間
待ちました。
届いた商品のパッケージや同封された仕様書にも、メーカー名や
製造拠点、モデル名の記載はありません。
型番のみ「GX8000」と記されているところを見ると、
日本メーカーの技術とデザインを無断転用した「パクリ商品」
であるが故に、詳細は明かせない・・・
ということなのでしょうか???

そんな中国製投げ専用リール:GX8000の、技術的検証を行って
みましょう。

2. スペック

中国製投げ専用リール:GX8000の実測スペック一覧を表1に
示します。

表1 中国製投げ専用リール:GX8000の実測スペック一覧
モデル GX8000
自 重 ライン含まず 600 g
ナイロン4号ライン含む 630 g
ギヤ比 1:4.5
オシュレーション・ストローク 39.5 mm
オシュレーション方式 円筒カム複軸
等速1.8度綾巻き
前進・後退各11.25ターン
ボールベアリング 10個
(うち1個はローラーベアリング)
ドライブギヤ 亜鉛合金ダイカスト製
(36歯)
ピニオンギヤ 真鍮マシンカット製
(8歯)
メインシャフト ステンレス鋼製 φ5.75 mm
ウォームシャフト ステンレス鋼マシンカット製
(前進・後退各7.5回転)
ウォームシャフトギヤ 樹脂製
(12歯)
メインボディー(リールフット部) アルミニウム合金ダイカスト製
メインボディー(駆動系パーツケーシング部) 樹脂製
ローター 樹脂製
ラインローラー 偏心V型
(ボールベアリング2個内蔵)
ハンドルアーム アルミニウム合金マシンカット製
左右両用 85 mm
ハンドルノブ 樹脂製 T型
フルストローク全長 208.5 mm
スプール仕様 前端径 77.00 mm
後端径 77.55 mm
糸巻き部径 66.90 mm
糸巻き部有効長 40.90 mm
糸巻き部アルミ肉厚 0.95 mm
スプールエッジ解放角 約45度
スプールテーパー角度 0度
スプール材質 本体・リング:アルミニウム合金一体
スプール全長 61.30 mm
スプール単体自重 110 g
購入価格(税抜き) 5,063

3. 外観デザインを検証

まずは、中国製投げ専用リール:GX8000の外観デザインについて
検証しましょう。

外観デザインの基本的なコンセプトは、『日本メーカー品の模倣』
のようです。

ボディー&ローターの主要パーツはダークブラウンのメッキ調
メタリックカラーに着色され、リヤキャップやローターに取り付け
られるカバー類と糸落ち防止カラーなどの小物パーツは金色に
着色されています。

日本メーカー品に比べると、金色の装飾部分が多いのが特徴
でしょうか。



金色のリヤキャップ形状は、シマノ・13パワーエアロ スピンパワー
のデザインを模倣しています。



リールフットのグリップ部は薄肉扁平断面でダイワ・トーナメント
サーフシリーズのデザインを模倣した形状ですが、リールシート
取り付け面の切り欠き形状はシマノ・ステラなどのデザインを
模倣しています。

 

ローターは、ダイワ・トーナメントサーフシリーズの
「エアローター」に似せた、開口形状デザインです。

ダイワ・トーナメントサーフシリーズの場合、大きく開口した
ローターの内側には防水シールド機構が設けられていますが、
中国製投げ専用リール:GX8000には防塵カバーらしき金色の
パーツが取り付けられているのみです。



ベールはシマノ・スーパーエアロ テクニウムの糸絡み防止ベール
や、ダイワ・トーナメントサーフシリーズの「エアーベール」に
似せており、太径ワイヤーと三次元的にラウンドしたライン
ローラー導入部形状を採用しています。

詳細は後述しますが、「ワンピースベール」や「中空ベール」
ではなく、中実ワイヤー・2ピース構造で、デザイン面のみ、
日本メーカー品のベールを模倣しているようです。



スプールは、シマノ・13パワーエアロ スピンパワーと同様に
ドラグ付きノーテーパースプールで、スプール後端フランジの
下半分が糸落ち防止カラーの内側に差し込まれる構造を模倣
しています。

シマノ・13パワーエアロ スピンパワーのスプールと異なる点は、
スプールの糸巻き胴部に複数のホール加工を施している点です。

ホール加工の効果もあり、ドラグ付きアルミスプールとしては
軽量な110gとなっています。


   スプール装着状態


    スプール単体

スプールの糸巻き量実測値は、ナイロン5号ラインが200m,
同4号ラインが250mです。
仕様書にはナイロンラインの直径表示で、0.35mm(4.5号相当)
が310m,0.4mm(6号相当)が240mと記載されていますが、
この値は実測値よりもかなり水増しされているようです。

私個人的にはナイロン4号ラインを主に使用しますので、この
糸巻き量なら可も無く不可も無く、という選択になります。
(欲を言えば、ナイロン3号ライン200m,同4号ライン150mの
糸巻き量ならベストなのですが。)

ワッシャー調整によりスプールセット位置を初期状態より0.5mm
低く調整する必要がありましたが、糸巻き状態は日本メーカー品
に劣らずきれいに偏りなく平行巻きができています。

ちなみに、スプールセット位置を調整するためのワッシャー
は標準装備されません。
ダイワ・パワーサーフQDシリーズ用のスプール調整ワッシャー
を流用するか、樹脂板で自作する必要があります。


ナイロン4号ライン250m巻き取り状態

アルミニウム合金製スプールのエッジ部分などの外装表面は、
三つ山相当の面粗度に切削加工後にアルマイト処理を施して
いますが、スプール内周面は切削加工のツールマークが深く
残っていることから、切削速度を高めて加工コストを低減
しているようです。

 

投げ専用リールにとってはとても重要視されるスプールエッジ
ですが、ライン放出時の抵抗にはならないレベルの擦れ傷が
付いています。

購入時点でスプールエッジの外観に傷があるというのは
日本メーカー品ではあり得ないことですが、ライン放出時に
引っ掛からなければ良い、といった大陸的品質規格では許容
されているのでしょうか。



スプール後端には糸止め機構が装備されていますが、こちらも
シマノ・13パワーエアロ スピンパワーの糸止め機構を模倣した
形状のようです。

便利な装備ではありますが、糸止め機構がやや小さくナイロン
12号ライン以上の太さではやや止め難い印象です。



ハンドルノブはABS樹脂製のためプラスチック然としたすべすべ
の握り心地です。
ハンドルノブの形状はダイワ・トーナメントサーフのハンドルノブ
を模倣しつつ大型化しているようで、リーリング時のグリップ感
は悪くありません。

さらに金色メッキ装飾により見た目の高級感?だけは手を抜く
こと無く確保しています。
リーリング機能には全く貢献しませんが・・・

ハンドルアームはアルミニウム合金マシンカット製となっており、
シマノ・パワーエアロ スピンパワーの形状を模倣してハンドル
回転中心軸側のアーム側面を面取り加工しています。

ハンドル回りに見た目の高級感は、それなりに備わっています。



アルミダイカスト製のボディー左サイドカバーはメッキ調
メタリックカラー着色を施していますが、成形用金型合わせ面
跡仕上げ部にバフ目が目視できることから、着色膜の厚さは
バフ目の深さ(約0.1mm)よりもごく薄い数10μmではないか
と思われます。

 

日本メーカー品でアルミダイカスト製ボディーを採用している
ソルトウォーター用リールでは、防錆皮膜を形成した上に電着
塗装することが一般的ですが、中国製投げ専用リール:GX8000
の着色皮膜の下地には防錆皮膜は形成されていないようです。

これは、中国の投げ釣りターゲットが淡水環境の鯉などであり、
ソルトウォーター環境で長期的に酷使することを考慮していない
仕様なのではないかと推測します。

以上のように、外観的にはシマノ・パワーエアロ スピンパワー
とダイワ・トーナメントサーフシリーズの模倣箇所が多数ある
のが中国製投げ専用リール:GX8000の特徴です。

4. 駆動系メカニズムを検証

 4.1 巻き取り機能駆動系部品
続いて中国製投げ専用リール:GX8000を分解して駆動系
メカニズムを検証してみましょう。

リールフットに繋がる形状のボディー左サイドカバーは
ドライブギヤの左側軸を支持する機能のみで、ドライブギヤや
ピニオンギヤ,オシュレーション・ウォームシャフトなどの
駆動系パーツはABS樹脂製のボディー右サイドケースに内蔵
されます。

このデザインは、シマノ・03パワーエアロや13パワーエアロ
シリーズを模倣したようです。

駆動系パーツを内蔵するボディー右サイドケースも、パーツの
組み付け支持精度を高めるためにアルミダイカスト製を採用
すべきだと思いますが、この価格でリールを販売するためには
樹脂製にせざるを得なかったものと推測します。

 

昭和の日本メーカー品スピニングリールと同様に、ドライブギヤ
が亜鉛ダイカスト製とピニオンギヤが真鍮マシンカット製と
なっています。

ドライブギヤが36歯、ピニオンギヤが8歯ですから、ギヤ比は
1:4.5ということになります。
リールの外箱には1:4.8、仕様書には1:4.7とギヤ比が記載され
ますが、これは明らかな誤記でしょう。

ドライブギヤ歯面はダイカスト成形の鋳肌のままで、日本メーカー
品の超々ジュラルミン製ギヤと比べると精密さには雲泥の差が
あります。

 
中国製投げ専用リール:GX8000のドライブギヤ
(亜鉛ダイカスト製)


 
シマノ・12スーパーエアロ フリーゲンのドライブギヤ
(超々ジュラルミン冷間鍛造製)


亜鉛ダイカスト製のドライブギヤ軸は、素材形状では金型から
離型するための抜け勾配が設けられていますが、リール本体に
組み付けるために抜け勾配区間の一部をストレート形状に
切削加工します。

その加工面には、ダイカスト成形時に亜鉛溶湯が巻き込んだで
あろう空気が鋳巣となり残っています。

また、ドライブギヤ素材を金型から離型するための押し出しピン
跡の仕上げ状態も粗く、押し出しピンと金型とのクリアランス部
に生じた立ちバリは除去されること無く、高さ0.2mm程度残った
状態でした。

このようなリールの駆動系部品の素材欠陥も、大陸的品質規格
では十分に合格品なのでしょうか。



真鍮マシンカット製のピニオンギヤは機械加工後の仕上げ
レベルが低く、歯面に残るツールマークで滑らかさが劣るだけ
でなく、ギヤ歯先端のシャープエッジ箇所にはカエリが残った
ままでリールに組み付けられています。

 

このままリールを使用すると、ギヤ歯先端のカエリが脱落して
ピニオンギヤとドライブギヤの噛み合わせ部に巻き込まれ、
双方のギヤ歯に異常摩耗を生じる恐れがあります。

念のため、ピニオンギヤのカエリは全てダイヤモンドやすりで
削り落として切粉も清掃し、リール本体に組み直しました。

 

ピニオンギヤは日本メーカー品と同様に上端と下端を
ボールベアリングで支持する構造となっており、上端側
ボールベアリングとピニオンギヤの間にクラッチ機構が
設置されています。

 
ピニオンギヤ下側ボールベアリング支持部


ピニオンギヤ上側ボールベアリング支持部

ピニオンギヤの上下端をボールベアリングで保持しているので
ピニオンギヤの回転自体は滑らかなはずですが、ドライブギヤ
とピニオンギヤの歯面精度が日本メーカー品より遙かに劣る
ためにリーリング時はゴロゴロとしたギヤノイズが生じます。

予想通りではありますが、日本メーカー品にには遠く及ばない
巻き心地の投げ専用リールです。
 4.2 クラッチ機構周辺
クラッチ機構は日本メーカー品に比べると小型化されており、
ローターから入力される逆転方向のトルクを受け止める内輪
スリーブや6本しかない転動体はそれぞれ細く・短く設計されて
いるようです。

もちろん防水・防塵パッキンなどは設置されておらず、
ソルトウォーターや砂などが浸入すると正常に機能しなくなると
思われます。

そこで、クラッチ機構の上部にピニオンギヤ軸上端側を保持
するボールベアリングとボールベアリング・リテーナーを配置して、
防水・防塵機能を持たせているものと推測します。

 
クラッチ機構を裏側から撮影         


クラッチ機構組み付け状態

クラッチの逆転ストップ&フリーは、ボディー左サイドカバーに設置
されたレバーで切り替えますが、レバーがやや小さくボディーに
ピタリと沿う位置にありますので、操作性はあまり良くありません。



クラッチ機構収納部には、金色に着色された防塵カバーが設置
されています。
しかし、防塵カバーとリール本体やピニオンギヤ軸上側ボール
ベアリング・リテーナーとの合わせ面に防水パッキンは設置
されていません。

さらに、防塵カバーの外観は派手な金色塗装ですが内側面
には大きな傷が付いており、目に見えない部位の品質は
極めて粗悪なイメージです。

 

ローターに設けられた大きな開口部からはソルトウォーター飛沫
も浸入するはずですが、防水パッキンが無いために塩噛みなど
のトラブルが生じる可能性が高いでしょう。

また、釣行後に真水で洗浄することも内部浸水による潤滑油や
グリスの乳化を引き起こし、回転不具合を生じる可能性が高い
ことから、分解した上でのこまめな清掃メンテナンスが欠かせ
ないと考えます。
 4.3 オシュレーション駆動系
中国製投げ専用リール:GX8000のステンレス鋼製ウォーム
シャフトは、前端と後端をボールベアリングで保持する構造で、
オシュレーションストローク:39.5mm区間に15周で1往復の
ウォーム(溝)が加工されています。

ウォームの幅は約1.9mmで、垂直に切り立った側壁が平行に
刻まれた、ごく普通のウォームシャフトです。

 
中国製投げ専用リール:GX8000の
オシュレーション・ウォームシャフト


一方でシマノ・スーパーエアロ キススペシャル CEのウォーム
シャフトでは、ウォームの側壁角度が三次元的に湾曲している
ことから、滑らかなオシュレーション動作の実現にはウォーム
の側壁勾配に重要なノウハウが存在するのかも知れません。

 
シマノ・11スーパーエアロ キススペシャルCEの
オシュレーション・ウォームシャフト


さらに、日本メーカー品ではウォームシャフトの前・後端軸受け部
はボディーケースの貫通穴となっていることが一般的ですが、
中国製投げ専用リール:GX8000はウォームシャフトの後端側
のみボディーケースの貫通穴に保持されており、前端側は左右
のボディーパーツでの挟み込み保持となっています。

 
黄色枠部がウォームシャフト前端部挟み込み保持
赤枠部がウォームシャフト後端部ボディー貫通穴保持

 
ウォームシャフト挟み込み保持部(左サイド)


ウォームシャフト挟み込み保持部(右サイド)

ウォームに沿ってオシュレート動作する摺動子には摺動子ガイド
が1本しか装備しておらず、リーリング中のメインシャフトに
ねじれ方向の荷重が作用すると摺動子がガタつき易い構造です。

リーリング中に摺動子がガタつくとオシュレーション動作の
滑らかさが失われて、ウォームシャフトピンの異常摩耗や
摺動子ガイドの異常摩耗を生じる恐れがあります。



日本メーカー品では摺動子ガイドは2本が標準仕様となって
いますが、中国製投げ専用リール:GX8000の摺動子保持
構造が日本メーカーの特許侵害を回避した仕様なのか、
それとも意図が有っての構造なのかは残念ながら不明です。

このような駆動系レイアウトの影響か、リーリング時に摺動子
やウォームシャフトがガタついているようで、仕掛け回収時の
リーリング負荷でもオシュレーションの後退端側1/3範囲で
ゴロゴロと大きく振動します。

オシュレーション・ウォームシャフトと組み合わされるウォーム
シャフトピンは、削り出し加工部品で焼き入れ硬化した形跡は
見られません。



ウォームシャフトにはステンレス鋼を使用していますから、
焼き入れ硬化したウォームシャフトピンを使用しないと耐摩耗性
が不足すると思われますから、長期使用の過程で摩耗状態を
チェックする必要があるでしょう。

なお、ウォームシャフトには15回転で1往復分の溝が加工
されており、12歯のウォームシャフトギヤが8歯のピニオンギア
から回転を受け取ります。

これらの仕様から算出したオシュレーション速度は、前進・後退
各ローター11.25回転となっており、ローター22.5回転で
オシュレーションは1ストローク往復することになります。

このオシュレーションスピードは、シマノ・エアロシリーズで
「等速スローオシュレーション」と呼称していた03パワーエアロ
から08スーパーエアロ キススペシャル,09スーパーエアロ
フリーゲンが同等速度域に相当します。

実釣領域でのこのオシュレーション速度は、ライン同士の
食い込みと巻きグセを防止した巻き取り性能と、スムーズな
ライン放出による軽快なキャスティング性能を発揮してくれました。

このフィーリングが実釣を繰り返す中で維持されるのか、
長期使用の過程でチェックしてみましょう。

5. その他のメカニズムを検証

 5.1 ラインローラーシステム
ラインローラーは日本メーカー品の複雑形状や耐摩耗性材質
(コーティング)が模倣できなかったのか?
昭和チックな偏心V型ローラー形状ですが、ボールベアリングを
2個内蔵しています。

実売価格が6千円台〜9千円台のリールでありながら、ライン
ローラー内部にボールベアリングを2個装備している点は高く
評価できるでしょう。

ただし、日本の投げ釣りで一般的なPEラインよりは、恐らく中国
ではまだ主流と思われるナイロンラインの使用を想定したライン
ローラーシステムのようです。

 

スプールに対するラインローラーの設置角度は、糸ヨレ防止
効果に大きく影響します。
中国製投げ専用リール:GX8000では、スプール外径の接線上
にラインローラーのV字溝が配置されるアームカム形状となって
います。

恐らく、日本メーカー品のラインローラーやアームカムを参考
にして、ラインローラーシステムを設計したのでしょう。

 

日本メーカー品では、ラインローラーとアームカムとの間に
ボールベアリングの内輪を保持するための突起形状を有した
ラインローラー座金が設置されますが、中国製投げ専用リール:
GX8000では突起形状を持たない平板形状のラインローラー
座金が装着されています。

この部分は、コストダウンを意識したであろうパーツ設計のよう
です。



日本メーカー品でもラインローラーにボールベアリングが2個
装備されるのはごく一部の上位機種であり、大半は1個のみの
装備です。

ラインローラーにボールベアリングが1個しか装備されず、
ボールベアリングとラインローラーの荷重点が垂直方向に一致
していない場合には、ボールベアリングから異音を生じたり
巻き取ったラインに糸ヨレが蓄積し易くなります。

ラインローラーにボールベアリングが2個装備される場合は、
ボールベアリングとラインローラーの荷重点が垂直方向に一致
しますし、ボールベアリング1個に掛かる荷重が半減するので、
ボールベアリングから異音を生じ難く糸ヨレ防止効果も高く
なります。

実際に、ナイロン4号ラインでの実釣では糸ヨレもなく快適に
キャスト&リーリングできました。
 5.2 ベール機構
ベールはダイワの「エアーベール」に似せて太径ワイヤーを
採用していますが、その太径ワイヤーは中空構造ではなく
ステンレスの棒材を曲げた物です。

ラインローラーへの導入部形状も三次元的にラウンドした造形
を模倣していますが、ワンピース構造ではなく2つのパーツを
カシメ接合しています。



ベールのステンレスワイヤーはアームカムの対極側先端が
平打ちされており、アームカム側の固定ネジを外してベールを
90度回転して引き抜くとベールホルダーから分離することが
できます。

リールをメンテナンスする上でのメリットは特にありませんから、
単に製造コストを低減した仕様ではないかと推測します

 

投げ釣りでは、アームカムがリールフット側に来た所で人差し指
にラインをピックアップした後、ベールを解放することがセオリー
となっています。

そのため、日本メーカー品でベールを解放すると、アームカム
がリールフット付近に有る状態でローター回転がロックされる
機構となっています。

一方中国製投げ専用リール:GX8000では、アームカムがリール
フット側に来た所で人差し指にラインをピックアップした後ベール
解放すると、ローターがさらに180度回転した所でロックされる
構造です。


ローター回転がロックされた姿勢

このローター回転ロック機構は、ダイワ・トーナメントサーフZ45C
の構造を一部模倣しており、アームカムの反転に伴いローター
回転ロックシャフトがローター下部に突出し、ボディー側の台座
形状と接触することでローター回転をロックする構造です。

ダイワ・トーナメントサーフZ45Cのローター回転ロックシャフトは
アームカムの対極側ベール軸に接続されていますが、中国製
投げ専用リール:GX8000のローター回転ロックシャフトはアーム
カムに接続されています。

 
 
ローター回転ロック機構:フリーの状態



ローター回転ロック機構:ロックの状態


ローター回転ロック台座

中国製投げ専用リール:GX8000のローター回転ロック機構の
特徴は、ハンドルを正転方向に回転するとボディー側台座の
傾斜面がローター回転ロックシャフトを押し上げて、アームカム
とベールが戻る点です。

ベールを解放してローター回転ロックシャフトがボディー側台座
の傾斜面に接触していない状態でキャスティング動作を開始
した場合、慣性力でローターが回転してアームカムとベールが
戻ってしまい、放出中のラインがアームカムに掛かるので
高切れする恐れがあります。

特に、スウィングスピードの速い遠投派キャスターは注意が
必要でしょう。
 5.3 ローター
中国製投げ専用リール:GX8000のローター材質には、
ABS樹脂を使用しているようです。
ABS樹脂は軽くて強い熱可塑性樹脂で、複雑な形状にも
射出成形が可能です。

ローター胴体部は大胆な開口形状で軽量化しているようですが、
あくまでもデザイン的なものであり極限の軽量化を目指した
仕様ではありませんから、特にリーリング時に荷重が掛かる
ベール取り付け保持部についてはかなりの肉厚構造となって
います。

 

なお、ローターの回転バランスは日本メーカー品と遜色なく、
バランスが取れた回転フィールです。
 5.4 ドラグ機構
ドラグ機構は、日本メーカー品のような「クイックドラグ」や
「ハイスピードドラグ」などは備わっておらず、ドラグノブ3回転
程度でドラグフリーとなるものです。



ドラグワッシャーは、スチール製とフェルト製の大口径ワッシャー
を交互に各3枚重ねたもので、特殊な材質・構造ではありません。

初期状態でドラグワッシャーに潤滑油は塗布されていない
ドライタイプとなっていますが、よりスムーズなドラグフリー釣法
を楽しむためにフェルト層にオイルまたはグリスを塗布する
ことが好ましいでしょう。



ドラグ力を調整するためのドラグノブは、ネジを2本緩めるだけで
簡単に分解・整備できる構造です。



そのドラグノブを分解して驚いたのは、ドラブワッシャーにドラグ
ノブ底板を押し付けるスプリングの末端が剥き出しで、ドラグノブ
底板側の接触面が摩耗していたことです。

このままの状態でドラグノブを開け締めし続けると、ドラグノブ
底板が摩耗してスプリングの縮み代が無くなり、ドラグワッシャー
を押し付ける力が保てなくなる可能性があります。

 

このような構造であれば、ドラグノブ底板とスプリングとの間に
スチールワッシャーが必要です。

サイズ的にはM6用平ワッシャーが適するのではないかと
思いましたが、M6用平ワッシャーの外径がドラグノブ底板の
スプリング受け面の内径より大きいため、装着不可能でした。

スチール材でのワッシャー自作はできませんが樹脂材なら
ワッシャーの自作は可能ですから、厚さ約0.5mmの樹脂板を
用いてドラグノブ底板摩耗防止ワッシャーを作成して装着
しました。



これでドラグノブ底板の摩耗は抑制されますから、ドラグ
ワッシャーを押し付ける力は初期状態を保つことができる
でしょう。

ドラグフリー釣法でラインが引き出された際にドラグ音を発生
するスプールピンは、シマノ製リールを一部模倣した構造と
なっています。



そのドラグ付きスプールを位置決め保持する「スプール受け」
も、シマノ・13パワーエアロ スピンパワーの部品を完全コピー
したような部品構成となっています。

シマノ・13パワーエアロ スピンパワーのスプール受けは、
12スーパーエアロ フリーゲンなどの固定式スプール仕様と共用
のため、内周に12段階タラシ調整機能のための切り欠き形状
が12山あります。

中国製投げ専用リール:GX8000のスプール受けは、ドラグ音
を発生するために外周の突起形状が必要ですが、互換性を
有する固定式スプールが存在しないため内周の切り欠き形状
は不要です。

それでも、何故か16山の切り欠き形状が設けられているのは、
恐らく部品機能を理解せずに構造・形状だけを模倣した結果
の誤作と推測します。

 
 5.5 糸落ち防止カラー
中国製投げ専用リール:GX8000の糸落ち防止カラーは、他の
外観装飾パーツと同様に派手な金色に着色されています。

外観形状的には13〜14年式シマノ製リールの糸落ち防止カラー
のデザインを模倣していますが、メインシャフトに挿通する
軸受け部から糸落ち防止カラー本体に繋がるスポーク形状は
オリジナルで、スポーク数,スポーク太さ共にシマノ製品よりも
補強されているようです。

 

糸落ち防止カラーのメインシャフト挿通穴にはボールベアリング
が装備されており、リーリング時には無音で回転します。

 

この糸落ち防止カラーをメインシャフトに挿通して位置決めする
ための金具は、針金を曲げて作った星形のものを使用しています。



日本メーカー品のようにE形止め輪(Eリング)の方が、長期的な
使用にも耐えると思うのですが・・・

もし針金製の位置決め金具が破損した場合は、内径5.0mmの
E形止め輪に交換しようと思います。

 5.6 ボールベアリング数
中国製投げ専用リール:GX8000のボールベアリング数は、
本体ローター内側に装着されるクラッチ機構部の防塵カバー
には16+1個、仕様書には18+1個と記載があります。



しかし、実際に分解整備にて確認されたボールベアリング個数
は10個です。
部品展開図に示されたボールベアリング数も、10個です。

 

うち1個はメインシャフト上の糸落ち防止カラー回転箇所、2個は
先述の通りラインローラーですから、駆動系部品の回転性能に
直接影響するボールベアリング数は7個と言うことになります。

ボールベアリング数が多ければ多い程、たくさん売れると思って
適当な誇大表示をしているのでしょうか。

ボールベアリングが10個装備されている中国製投げ専用リール:
GX8000ですが、ハンドルを回した感触での駆動系部品の回転・
噛み合わせ精度と滑らかさは、ボールベアリング数が2〜3個
だった昭和の投げ専用リールと同等レベルでしかありませんが・・・

6. まとめ

中国製投げ専用リール:GX8000のメカニズムを検証しましたが、
中国メーカーに投げ専用リール作りのノウハウは備わって
いないとみて間違いはないでしょう。

中国で人気の鯉釣りに使用できる最低限のスペックを備えて
はいるのでしょうが、スピニングリールの心臓部ともいえる
ドライブギヤとピニオンギヤの噛み合わせ精度やウォームシャフト
による平行巻きシステムは日本メーカー品なら40年近く前の
品質レベルです。

もっとも中国の釣り人は、日本の投げ釣り師のように自重の
軽さや駆動系パーツの滑らかでブレや振動のない回転性能と
ボディー各部の防水・防塵機能の充実を、「投げ専用リール」に
求めていないのでしょう。

そのような環境で製造・販売される中国製投げ専用リール:
GX8000ですから、当然のことながらハンドル自重だけで滑らか
に回転する駆動系パーツや鉄壁の防水・防塵機能は装備
されていません。

正直なところ、中国製投げ専用リール:GX8000は10年以上の
実釣使用には耐えることはできないのではないかと予想して
います。

実売価格5,000円台の投げ専用リールはあくまでも5,000円台
相当の品質や機能しか有しておらず、「お買い得感」という
ものは皆無に等しい、ということのようです。

取り敢えず、日本メーカーからの新製品が発売されるまでの
「つなぎ役」として、期間限定的な使用に適する
「お手軽投げ専用リール」だといえるでしょう。