'10年02月26日
Report #074 対決! シマノ・98スピンパワーSC425XX vs. 05スピンパワー425XX
1. 新旧スピンパワー 一年間のロング対決!
私自身は1993年以来長らくリョービ・プロスカイヤーを愛用していたのだが、いろいろと考えるところ
があり、キャスティング競技用ロッドを変更するつもりで2009年1月から98スピンパワーSC425XXと
05スピンパワー425XXでの練習を重ねていた。
その練習投擲データから、ネーミングこそ同じであるもののキャストフィールはかなり味付けの異なる
新旧スピンパワーの対決!分析をしてみよう。
2. スペック&外観比較
新旧スピンパワーのスペック一覧を表1に示す。
表1 新旧スピンパワーのスペック比較
98スピンパワーSC425XX 05スピンパワー425XX 実測全長 4,265 mm 4,265 mm 先 径 4.6 mm 4.0 mm 元 径 23.0 mm 23.0 mm ストリップ仕様カタログ自重 505 g 495 g ガイド付き
実測自重全 体 565 g 587 g # 1 87 g 82 g # 2 187 g 194 g # 3 291 g 312 g ロッドトップ
からの距離
(ガイド,シート種)
<ブランクス径>TOPガイド 0 mm
(SF-16F)
<4.60 mm>0 mm
(SF-16F)
<4.05 mm>#2ガイド 200 mm
(T-SVSG-12)
<5.50 mm>200 mm
(T-SVSG-12)
<4.90 mm>#3ガイド 435 mm
(T-SVSG-16)
<6.85 mm>440 mm
(T-SVSG-16)
<6.35 mm>#4ガイド 765 mm
(T-SVSG-20)
<8.55 mm>760 mm
(T-SVSG-20)
<8.00 mm>#5ガイド 1,190mm
(T-HVSG-25M)
<10.50 mm>1,185 mm
(T-HVSG-25M)
<9.95 mm>#2玉口から
50mm下位置1,440 mm
<13.55 mm>1,440 mm
<13.55 mm>#6ガイド 1,860 mm
(T-HVSG-30H)
<15.10 mm>1,855 mm
(T-HVSG-30H)
<15.00 mm>#3玉口から
150mm上位置2,615 mm
<18.10 mm>2,615 mm
<18.20 mm>#3玉口から
100mm下位置2,865 mm
<21.85 mm>2,865 mm
<21.90 mm>リールシート 3,330 mm
(T-LS-7)
<22.35 mm>3,320 mm
(NS-7)
<22.45 mm>グリップエンドから
120mm上位置4,145 mm
<22.70 mm>4,145 mm
<22.70 mm>
スペック比較で確認できる相違点は、#1セクションと#2セクションのブランクス径および自重バランスが
98スピンパワーSCと05スピンパワーで異なることだろうか。
数値的に比較すると、以下の違いが挙げられる。
@#1セクション
05スピンパワーが98スピンパワーSCよりも約5g軽く、ブランクス外径も細軸構造となっている。
05スピンパワーと98スピンパワーSCでは、#1セクションのブランクス肉厚自体に大きな違いは
ないようで、穂先部が細軸化された分だけ05スピンパワーが軽くなったものと推測する。
A#2セクション
ブランクス外径に大きな違いはないが、05スピンパワーが98スピンパワーSCより約7g重い。
大幅なブラックス肉厚の変更ではなく局部的肉厚アップによる補強のみ行っているようだ。
B#3セクション
実測自重ではリールシート材質の違い(98スピンパワーSC:チタン/05スピンパワー:ステンレス)
により05スピンパワーの方が約21g重いが、実はブランクス単体では98スピンパワーSCが269g,
05スピンパワーが258gと、約11gの違いがある。
ブランクス径では、98スピンパワーSCに比べて05スピンパワーの方が約0.1mm太くなっているが、
約11gの質量差がブランクス肉厚の変更によるものなのかどうか、真相は不明である。
左3ピース:98モデル 右3ピース:05モデル
ブランクス構造は98スピンパワーSC,05スピンパワーともに『ハイパワーX』構造を採用しているが、
表面の塗装皮膜によりX状のカーボンテープ幅や巻きピッチは明確に目視することはできない。
ただ、ブランクス表面の凹凸でカーボンテープの重なる点を観察する範囲では、98スピンパワーSCと
05スピンパワーで『ハイパワーX』構造のパターンに大きな違いは見られない。
これまでのシマノ社製歴代キャスティングロッドでは、モデルチェンジの都度『ハイパワーX』構造の
特にX状のカーボンテープ幅や巻きピッチについて設計変更が行われる事例が多く見られた。
そして、その目視的な変更ポイントが新製品でのアピールポイントにもなっていたのだが、ここ数年間
に発売されたシマノ社製キャスティングロッドはほぼ全てブランクス表面に塗装が施されるようになり、
ブランクス構造の進化を見て感じることができなくなったのがやや残念である。
そのブランクス表面の塗装品質であるが、こちらは新旧モデルでかなり大きな進化?がみられる。
98スピンパワーSCでは、ブランクスの重量増を抑えるためかそれともアクションへの影響を最小限に
抑えるためか、塗装皮膜は価格の割りに薄く貧相で傷がつき易いものであった。
この98モデルで、『スピンパワー=メタリックシルバー』というイメージカラーが定着していたせいか、
05モデルでは『スピンパワーらしく』メタリックシルバー色が継承され、さらに質感を向上したパール系
多層化により傷にも強く、価格なりの高級感が与えられた。
写真左:上3ピースが05モデル 写真右:上が05モデル(拡大)
下3ピースが98モデル 下が98モデル(拡大)
3. キャストフィーリング比較
カタログコピーには、
・98スピンパワーSC:『穂先を硬めにし、オモリが胴にのる調子に設定』
・05スピンパワー:『振りに応じて曲がる感覚、反発していく感覚が、心地よく伝わってくる』
と記されているが、実際に投げた印象でもやはりカタログコピーの通りであった。
98スピンパワーSCではやや太めの穂先を持つ#1セクションに細軸・厚肉構造の#2セクションを組み
合わせたスローテーパーブランクスの胴調子アクションとなっているが、スウィング動作を開始して
間もなくロッドの#2セクションにシンカー荷重が乗ってくる感触がつかめる。
同時に、#2セクションの下半分からリールシートまでの間を曲げるために、キャスターはロッドを押し
込む力、つまり加速度を増さなければならない。
#2セクションにはバランスよく剛性感と粘りがあるので、付加する荷重に対してロッドが曲がってくる
感触がリニアに感じられるのだが、#2セクションにシンカー荷重が乗ってくる感触が唐突でもある。
フィニッシュではロッドの#2セクションがある種『暴力的』に反発トルクを発生し、一瞬のうちにシンカー
を弾き飛ばすような印象を受ける。
従ってリリースポイントが狭く感じられ、少しでもタイミングがズレると弾道は狙った軌道を外れてしまう
傾向にある。
一方、05スピンパワーはファーストテーパーブランクスの先調子アクションだが、曲げ易さを増した
#1セクションがスウィング動作の初動ショックを吸収した後、#2セクションにシンカー荷重を伝達する。
#2セクションは98スピンパワーSCと同様に付加荷重に対応してリニアに曲がってくる感触が掴める
のだが、#2セクションの下半分からリールシートまでの間の突っ張り感が増しているために、
98スピンパワーSCよりも意識的に大きく速く振り切らないとロッドが曲がってこない印象だ。
フィニッシュでは98スピンパワーSCと同様に#2セクションが強い反発力を発生するが、05スピンパワー
の反発は『紳士的』と表現できるだろう。
曲がったロッドはバットセクションから順序良く反発挙動を開始する印象なので、リリースポイントが
つかみ易く弾道コントロール性も優れている。
これら一連のスウィング動作が『オートマチック感覚』にできるので、『投げ方はロッドが教えてくれる』
と言っても過言ではないくらいに、ラクにキャスティングが楽しめる。
スウィング動作プロセスの合成画像では、98スピンパワーSCと05スピンパワーの違いはほとんど確認
できず、#1セクションから#2セクションにかけての曲率も目視的にはほぼ同じに見える。
写真左:98スピンパワーSC425XX 写真右:05スピンパワー425XX
両ロッドの特性差はロッドを最大曲率に曲げるまでのプロセス,フィーリングであり、パワーアクション
で豪快なキャスティングが楽しめる98スピンパワーSCと、オートマチック感覚で軽快なキャスティング
が楽しめる05スピンパワーという味付けの違いで、心地よくラクに飛ばす上での進化が感じられた。
4. 実投飛距離比較
に『98スピンパワーSC425XX vs. 05スピンパワー425XX』実投対決結果を示す。
1年間の実投比較の結果、98スピンパワーSCと05スピンパワーの飛距離差は常に僅差での勝負と
なったが、上位60%総平均飛距離は98スピンパワーSCの171.64mに対して05スピンパワーでは
171.16mと、0.5m弱の差がついた。
また、平均飛距離の最高値が約2.2m,最低値も約1.0mの差で98スピンパワーSCが05スピンパワー
を突き放した。
一方で、勝率については26回の実投比較で双方とも13勝13敗と全くの互角勝負となった。
98スピンパワーSCに比べて『曲げ易さ』に進化の見られた05スピンパワーでは得られる飛距離にも
進化が期待されたのだが、実際のところは0.5mといえども98スピンパワーSCに負けてしまう結果と
なったのは想定外であった。
辛うじて勝率は同率となり引き分けの判定もできるのだが、センチ単位で飛距離を競うキャスティング
競技の世界では、たかが0.5mされど0.5mであり飛距離アップが望めないタックルは即出番を失う。
しかも、一年間:延べ400投近い実投データに基づく比較結果であればなおさらである。
それでも05スピンパワーが有利となるコンディションがないものかと分析を続けたのだが、
組み合わせるリールがダイワ・トーナメントサーフZ45Cの場合に98スピンパワーSCよりも
05スピンパワーが有利になることが判明したものの、その平均飛距離差はたったの0.2m。
このときの勝率は9勝6敗であるから有意差はあると言えるが、それでも0.2mの差でしかない。
ところが、リールをシマノ・スーパーエアロ テクニウムMgに換えると、平均飛距離差:約1.5m,
勝率:7勝4敗でやはり98スピンパワーSCが優位に立つ。
では、キャストフィーリングにおいて投げ易さ,タイミングの合わせ易さが向上した05スピンパワーは、
せめてフェアゾーン投擲精度だけでも98スピンパワーSCを上回ることができるのだろうか?
フェアゾーン投擲率の年間平均値は、98スピンパワーSCの79.6%に対して05スピンパワーでは80.7%。
数あるキャスティング競技用ロッドの中でも、元々98スピンパワーSCのコントロール性能は十分に
優れているが、それも5年間の投擲実績(主力使用ではないが)による『慣れ』の影響もある。
キャスティング競技においてはライントラブルや一瞬のタイミングズレなどによるファール投擲がある
程度の発生率で不可避的に生じてしまう。
その点を考慮すれば、フェアゾーン投擲率が年間平均で80%を超えるキャスティング競技用ロッドと
いうのはそうあるものではないが、その特殊領域に購入して最初の一年であっさり到達した点で
05スピンパワーのフェアゾーン投擲精度が優れていると評価することができるだろう。
(98スピンパワーSCは2003年11月から所有,05スピンパワーは2009年1月から所有。)
さらに05スピンパワーで投げ込みを続ければ、年間平均飛距離で98スピンパワーSCを0.5mでも
上回ることができ、85%以上のフェアゾーン投擲精度を発揮する知れないと期待するのだが…
結論としては、98スピンパワー vs. 05スピンパワーの実投対決は、現時点では98スピンパワーが
平均飛距離,投擲精度ともに優れたポテンシャルを発揮して勝利、ということになるだろう。
5. まとめ
スピンパワーがモデルチェンジによって進化した部分、それはラクにキャスティングが楽しめる
『オートマチック感覚』に尽きるだろうか。
それもユーザーを惹きつける魅力の一部ではあるのかも知れないが、キャスティング性能だけを
追求する、私を含めた一部のキチガイキャスターにとってはやや退屈なロッドとなってしまった気が
する。
それでも、引き続き比較投擲を続ける意味合いは十分にあるだろう。
まだ使い始めて1年で、ここまでポテンシャルを引き出すことができているのだから。
もう少し実投比較を続けてみようと思う。