'20年08月06日

Report #096.01  シマノ・12スピンパワー 405XX  &
            シマノ・16スピンパワー SC 405X2     インプレッション(前編)


1. 新旧スピンパワー対決から10年、
  シマノ・16スピンパワーSC 405X2 と シマノ・12スピンパワー 405XX を
                シマノ・98スピンパワーSC 425XX  と比較検証!

98スピンパワーSC 425XXと05スピンパワー 425XXの対決比較レポートを掲載して、早いもので10年が
経過した。

【LINK】
  Report #074 対決! シマノ・98スピンパワーSC 425XX vs. 05スピンパワー 425XX('10/2/26)

           
         写真1 05スピンパワー 425XX と 98スピンパワーSC 425XX

10年前には大会本番用ロッドへの起用を考えて熱心に比較検証を重ねていた98スピンパワーSC 425XX
と05スピンパワー 425XXであるが、05スピンパワー 425XXは「新世代先調子」と謳われるやや軟調子の
#1セクションがラインリリース後に大きくリバウンドするのが気に入らず、最終的には手放すことになった。

一方の98スピンパワーSC 425XXは2009年〜2012年のキャスティング大会で本番用ロッドに起用し、
広島協会ST-A種目の記録更新にも貢献しただけに、私にとっては数あるキャスティング競技用ロッドの
中でもお気に入りロッドの内の一本である。

では、直近の2モデル:12スピンパワーと16スピンパワーSCのキャストフィールと遠投性能は、
98スピンパワーSCと比較してどのように進化しているのだろうか?

理想的には同じロッド長さでの比較が好ましいのだろうが、私自身キャスティング競技ST種目には2016年
以降4.10mロッドを愛用していることから、今回の比較テストでは4.05m仕様の40号負荷モデル・・・
 ・12スピンパワー 405XX
 ・16スピンパワーSC 405X2
をチョイスして、98スピンパワーSC 425XXとの実投比較を行った。
コロナ禍でキャスティング大会が中止となった2020年長期オフシーズンを利用して・・・

まずは、ロッドのスペックとディメンション測定値からの考察をReport #096.01(前編)として、
また実投比較における飛距離データとキャストフィールの分析をReport #096.02(後編)として、お届けします。


2. スペック比較

16スピンパワーSC 405X2,12スピンパワー 405XX,98スピンパワーSC 425XXのスペック一覧を表1に
示す。

表1 2020年度実投比較した歴代スピンパワーのスペック一覧
ロッド シマノ
16スピンパワーSC 405X2
シマノ
12スピンパワー 405XX
シマノ
98スピンパワーSC 425XX
実測全長 4,070 mm 4,080 mm 4,265 mm
先径カタログ値 3.7 mm 3.8 mm 4.6 mm
元径カタログ値 23.0 mm 23.0 mm 23.0 mm
ストリップ仕様カタログ自重 485 g 465 g 505 g
ガイド
リールシート
グリップ
バランサー
含む
実測自重


(参考数値)
全 体 635 g 593 g 649 g
#1セクション 73 g
(ブランクス:56g)
(全長:1,360mm/有効長:1,266mm)
79 g
(ブランクス:62g)
(全長:1,430mm/有効長:1,340mm)
87 g
(ブランクス:69g)
(全長:1,492mm/有効長:1,397mm)
#2セクション 189 g
(ブランクス:178g)
(全長:1,417mm/有効長:1,295mm)
177 g
(ブランクス:167g)
(全長:1,431mm/有効長:1,,310mm)
187 g
(ブランクス:176g)
(全長:1,500mm/有効長:1,373mm)
#3セクション 373 g
(ブランクス:258g)
(全長:1,515mm)
337 g
(ブランクス:238g)
(全長:1,431mm)
375 g
(ブランクス:269g)
(全長:1,501mm)
ロッドトップ
からの距離

(ガイド,シート種)

<ブランクス径>
TOPガイド 0 mm
(T-SF-16F)
<3.70 mm>
0 mm
(SF-16F)
<3.70 mm>
0 mm
(SF-16F)
<4.60 mm>
#2ガイド 190 mm
(T-SVSG-12)
<4.75 mm>
200 mm
(T-SVSG-12)
<4.90 mm>
200 mm
(T-SVSG-12)
<5.50 mm>
#3ガイド 420 mm
(T-SVSG-16)
<6.05 mm>
440 mm
(T-SVSG-16)
<6.35 mm>
435 mm
(T-SVSG-16)
<6.85 mm>
#4ガイド 730 mm
(T-SVSG-20)
<7.80 mm>
755 mm
(T-SVSG-20)
<8.15 mm>
765 mm
(T-SVSG-20)
<8.55 mm>
#5ガイド 1,140mm
(T-HVSG-25M)
<9.60 mm>
1,180 mm
(T-HVSG-25M)
<10.00 mm>
1,190 mm
(T-hvSG-25M)
<10.50 mm>
#2
最細部
1,336 mm
<12.70 mm>
1,410 mm
<13.05 mm>
1,400 mm
<13.55 mm>
#6ガイド 1,840 mm
(T-HVSG-30H)
<14.90 mm>
1,840 mm
(T-HVSG-30H)
<14.80 mm>
1,860 mm
(T-HVSG-30H)
<15.10 mm>
#2
最太部
2,466 mm
<17.45 mm>
2,550 mm
<17.65 mm>
2,615 mm
<18.10 mm>
#3
最細部
2,760 mm
<21.25 mm>
2,850 mm
<21.15 mm>
2,970 mm
<21.60 mm>
リールシート 3,140 mm
(NS-7)
<22.00 mm>
3,150 mm
(NS-7)
<22.35 mm>
3,330 mm
(T-LS-7)
<22.35 mm>
#3
最太部
3,660 mm
<23.25 mm>
3,850 mm
<22.90 mm>
3,945 mm
<23.10 mm>
グリップ直上 3,855 mm
<22.60 mm>
3,865 mm
<22.80 mm>
4,045 mm
<22.75 mm>
標準小売価格(ロッド単体;税別) 130,000円 93,500円 102,000円
ロッド 16スピンパワーSC 405X2 12スピンパワー 405XX 98スピンパワーSC 425XX

スペック表から見える数値から比較すると、それぞれのロッドのキャラクター以下のように推察される。

 @各セクション毎の自重配分
   ブランクス自重の比較については、各ロッドが不等長3本継ぎだったり等長3本継ぎだったりするため、
   直接的な比較はできない。
   では、各ロッドのセクション毎のガイド無し自重値を全長で割った単位長さ当たりの質量で比較すると
   どうなるだろう?

   表2 各セクションの単位長さ当たりの質量   
ロッド 16スピンパワーSC 405X2 12スピンパワー 405XX 98スピンパワーSC 425XX
#1セクション 0.41 g/cm 0.43 g/cm 0.46 g/cm
#2セクション 1.26 g/cm 1.17 g/cm 1.17 g/cm
#3セクション 1.70 g/cm 1.66 g/cm 1.79 g/cm

   ブランクスの質量を決定付ける要素としては、カーボン繊維に対するエポキシ樹脂の配合比率と
   肉厚量であるが、当然のことながら同じ外径であれば単位長さ当たりの質量が重いブランクスの方が
   硬くなる傾向があるだろう。

   ただし、使用しているカーボン繊維の弾性率や積層パターンの違いによっては、軽いブランクスでも
   硬く製竿することは可能だと思われる。

   3モデルを比較して、#2セクションと#3セクションの単位長さ当たり質量がやや大きい値となっている
   16スピンパワーSCは、他モデルと比べて高弾性・高密度ブランクス化されてXXグレードよりも一クラス
   硬いXX+グレードとなっていることが予想される。

   12スピンパワーでは#2セクションと#3セクションの単位長さ当たりの質量が16スピンパワーSCに比べ
   て軽くなっており、#2セクションについては98スピンパワーSCと同一値の1.17g/cm,#3セクションは
   最軽量の1.66g/cmとなっている。
   しかしながら、カーボン繊維の高弾性化や積層パターンは98スピンパワーSCよりも14年分進化して
   いるはずで、軽くても硬さと張りはしっかり発揮する新世代XXグレードとなっていることが予想される。

 Aブランクステーパー角度
   一般的に、ブランクステーパー角度の違いによるスウィング時のフィーリング変化は、以下のような
   傾向にある。

   ・ファーストテーパー(テーパー角度が大きい)ロッド
     #1セクションから#2セクションへ、#2セクションから#3セクションへと荷重が掛かっていく感触が
     リニアに感知できる傾向にある。
     ロッドを押し込めば押し込むほどに荷重点が手元側に移行し、反発エネルギーも増す。
     スウィング動作のフィニッシュでは、ロッドの#3セクションの上半分と#2セクションの下半分が
     順序よく反発するイメージで、リリースタイミングは掴み易い。

   ・スローテーパー(テーパー角度が小さい)ロッド
     #1セクションに荷重が掛かった状態から一気にロッドを押し込むことで、ロッドの#2セクションから
     #3セクションの上半部が均一に曲がる傾向があるが、ブランクスの肉厚や径が増せば当然ロッド
     を曲げ込むための荷重は大きくなる。
     スウィング動作のフィニッシュでは、ロッドの#3セクションの上半分と#2セクションの下半分が
     短時間の内に一斉に反発するイメージで、リリースタイミングはやや掴み難い。

   では実際にブランクス径測定結果からテーパー角度を算出してみると・・・

   表3 各セクションのブランクステーパー角度
ロッド 16スピンパワーSC 405X2 12スピンパワー 405XX 98スピンパワーSC 425XX
#1セクション 0.148 度 0.153 度 0.142 度
#2セクション 0.120 度 0.116 度 0.107 度
#3セクション 0.064 度 0.047 度 0.044 度

   という結果が得られた。

   更にキャスティング用ロッドとしてのキャラクターを最も決定付ける#2セクションのブランクステーパー
   角度について詳細に算出すると、以下の値であった。

   表4 #2セクションのブランクステーパー角度詳細
ロッド 16スピンパワーSC 405X2 12スピンパワー 405XX 98スピンパワーSC 425XX
#2セクション
先側
0.123 度
(玉口より70〜580mm区間)
0.093 度
(玉口より70〜300mm区間)
0.122 度
(玉口より100〜950mm区間)
#2セクション
中央
0.164 度
(580〜750mm区間)
0.138 度
(300〜800mm区間)
#2セクション
元側
0.102 度
(750〜1,200mm区間)
0.101 度
(800〜1,210mm区間)
0.102 度
(950〜1,220mm区間)

   上記の数値から推測されるのは、シマノの提唱する「新世代先調子」の2モデル:16スピンパワーSC
   と12スピンパワーでは#2セクションの中間部にファーストテーパー部を設けることで『節』を作り、
   負荷される荷重に応じて順序よく曲がる先側区間とその荷重を受けて反発エネルギーを蓄積する
   元側区間に機能を分担しているのではないか?という点である。

   特に16スピンパワーSCは、#2セクション中間部のブランクステーパー角度が大きいことに加えて、
   #1セクションが短く#3セクションが長い不等長3本継ぎとなっていることからも、他モデルのXXグレード
   よりもピーキーで突っ張り感の強い先調子ロッドであると予想される。

   12スピンパワーは、#2セクションのブランクステーパー角度の変化量が16スピンパワーSCよりも
   小さいことと、『節』となるファーストテーパー区間が長めの設定であることから、16スピンパワーSC
   ほどピーキーでは無く程よい突っ張り感の先調子ロッドであると予想される。

 B各セクションの節長さ配分
   12スピンパワーと98スピンパワーSCは共にごく普通の等長3本継ぎとなっているが、
   16スピンパワーSCは不等長3本継ぎ仕様に変更されている。

   16スピンパワーSC 405X2の場合、各セクションの有効長さは#1セクション:126.6cm,#2セクション:
   129.5cm,#3セクション:151.5cmとなっており、等長3本継ぎのロッドであれば、#1セクションは3.85m
   ロッド級,#2セクションは4.05mロッド級,#3セクションは4.25mロッド級に相当する。

   等長3本継ぎロッドの場合、スウィング動作における3段階期、
    ・初期 : シンカーが離陸した直後に#1セクションが曲がる段階
    ・中期 : ロッドを押し込み#2セクションから#3セクションを曲げる段階
    ・最終期 : ロッドの押し込みを止めてロッド反発させながらラインリリースする段階
   といった一連のプロセスを一定のリズムで行えばロッドがシンカーを弾き飛ばしてくれるはずだ。

   12スピンパワー 405XXと98スピンパワーSC 425XXは、このような挙動を示すロッドだろう。
   各セクションの硬さバランスや4.05m3本継ぎと4.25m3本継ぎとの節長さの違いで、キャストフィール
   は若干変わるかと思うが、ST種目のように振り幅に制限のある種目でも十分にロッドのポテンシャル
   を引き出すことは可能だろう。

   一方の不等長3本継ぎロッドでは、スウィング動作の初期〜中期〜最終期と移行するタイミングが
   分割セクションの長さに応じて変化する。

   16スピンパワーSCの#1セクションは3.85mロッド級に短く設定されているので、シンカー荷重が
   #2セクションに負荷されるタイミングは等長3本継ぎロッドよりも早くなると予想される。

   スウィング動作の初期から中期への移行が早くなる分、ロッドを押し込んで#2〜#3セクションを曲げる
   ための時間が長く得られるのだが、#3セクションの長さが延長されたことでロッドの突っ張り感が増し、
   スウィング動作の中期においてロッドが勝手に反発挙動を開始しようとすることも予想される。

   16スピンパワーSC 405X2は、スウィング動作の速い段階でシンカー荷重がロッドの#2セクションに
   乗ってきて、さらに#3セクションまで荷重点を移行しながらロッドの反発挙動を押さえ込んでベストな
   リリースタイミングまで加速を続けることが必要になるだろう。

   ST種目のように振り幅に制限のある種目では、なかなか手強いロッドではないだろうか?


3. ロッド外観

一般的に、カーボンブランクスに塗装を施すことで、以下のメリットとデメリットが発生する。

【メリット】
  ・カーボン繊維を接着しているエポキシ樹脂の紫外線劣化が抑制される。
  ・多層塗装や厚膜塗装の場合はライン擦れなどによるブランクスへのダメージが抑制される。
  ・吹き付け塗装の場合は低コストでも均一な塗装膜が得られる。(塗装膜厚は薄くなるが。)
  ・カラーリングでのアイデンティティー発揮によりデザイン面でのアピールポイントとなる。

【デメリット】
  ・ロッドの自重値が増加する。(塗料の成分や膜厚によっては100g以上増えることもある。)
  ・浸漬塗装の場合はコストアップとなる。(多層塗装により厚い塗装膜が得られるが。)
  ・多層塗装や厚膜塗装の場合はブランクスの曲り特性を阻害することがある。
  ・カーボン繊維の積層パターンをロッドの外観アピールポイントとして活用できない。

98スピンパワーSCは、ブランクスアクションへの影響や重量アップを避ける目的であろうか、ロッド表面の
塗装膜厚がごく薄く、ガイド取り付け箇所やリールシート取り付け箇所の下地テープを除去しただけで
メタリックシルバーの塗装膜が剥がれ、ブランクスがむき出しになることもあったようだ。

幸い私の所有する98スピンパワーSCは、ガイド取り付け位置変更の際にも塗装膜が剥がれることが無く、
比較的キレイな状態を維持できている。
入手したのがモデル末期の2003年だったので、もしかすると塗装膜の仕様変更が行われた?
のかも知れないが、明らかに歴代スピンパワーシリーズ中でも最も塗装膜のクオリティーが低い。


                   写真2 98スピンパワーSC 425XX

そのような背景からか、12スピンパワーではキススペシャルに匹敵する質感の多層塗装が施され、色調
も薄くピンクがかったパール系シルバーに変更された。

当然、塗装膜の存在によりカーボンブランクスの形態は全く見えないデザインで、ブランクス最外層の
『ハイパワーX構造』や当モデルから新たに採用された『スパイラルX構造』のカーボン繊維模様は目視
することができない。


                   写真3 12スピンパワー 405XX

一方で、16スピンパワーSCはブランクス表面のカーボン繊維が透けて見えるクリア塗装のみ施された
黒一色のデザインに変更され、いかにも『キャスティング競技専用』の外観となった。

このクリア塗装のみを施したカーボン繊維むき出しのデザインは、1990年代の銘竿:ファインセラミックSC
以来のもので、『ハイパワーX構造』の特徴であるX状のカーボンテープ模様と『スパイラルX構造』の特徴
であるフープ方向カーボンテープ模様が目視できる。


                   写真4 16スピンパワーSC 405X2

このカーボン繊維模様がブランクスを筋肉質に見せる印象で、私個人は大変気に入っている。

今回比較テストを行った3機種を並べると、以下のような外観差となる。


                      写真5 左:16スピンパワーSC 405X2
                           中:12スピンパワー 405XX
                           右:98スピンパワーSC 425XX


Report #096.02  シマノ・12スピンパワー 405XX  &
            シマノ・16スピンパワー SC 405X2     インプレッション(後編)



に続く・・・